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【スタ特12】もしかして、誘ってる?
都合の良い解釈
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天莉と両思いになれて以来、共有スペースで時間をともにする機会が増えた。
夕飯後なんかも、少し前まではすぐにゲストルームへ引っ込んでいた天莉が、こんな風にごく自然な様子で俺のそばにいてくれる。
そんな、何てことのない時間がたまらなく心地いいと感じられる相手が、幼なじみの直樹や璃杜以外に出来るだなんて、人生何があるか分からないものだ。
リビングで、天莉と二人、横並びにソファへ腰掛けて。
尽はすぐ隣へ座る天莉の温もりに、フッと表情を緩めた。
「ね、いつも私が観たいのばかり優先してくれてるけど、尽くんは観たい番組とか……ホントにないの?」
天莉は動物番組と、恋愛もののドラマを好む。
今だって画面には、猫の親子の姿が映し出されていた。
俺は昔からそんなにテレビを観る方じゃなかったし、まぁ観てもせいぜい洋画なんかを語学の習練のためにオリジナル音声のまま流す程度。
天莉のように、純粋に内容を楽しんでいるのとは違ったから。
本当に天莉が喜ぶものを一緒に観るので全然構わなかった。
だが――。
そこでふとイタズラ心が湧いた俺は、天莉の耳元に唇を寄せてそっと囁いてみる。
「俺、実はホラー映画とか官能映画とか好きなんだけど、観たいって言ったら付き合ってくれるの?」
「――っ!」
もちろんそんなの真っ赤な嘘だし、正直前者は観たこともないジャンルだが、どちらも流せば天莉との距離をグッと近付けてくれること請け合いなはずだ。
「あ、あの、わ、私っ……」
ソワソワと視線を彷徨わせてにわかに焦り出す天莉が可愛くて、俺は心の中で一人ほくそ笑む。
(――おや?)
ふとそこで、わざとらしくじっと見つめ続けた天莉の横顔、くるんとした彼女の長めのまつ毛の上に、何かゴミのようなものが付いているのを発見した。
「ねぇ天莉、ちょっとこっち向いてくれる?」
声を掛けてグッと間近。
天莉の可愛い顔をこちら側へ向けるように指示して真正面から見つめたら、先の会話の流れもあって、天莉が不安そうに瞳を揺らせる。
そんな天莉のまつ毛の上、やっぱり透明な、ごくごく小さな糸屑みたいな埃が乗っかっているのが確認出来た。
(目に入ったら大変だ)
いくら小さくても、そういうのが目に入れば何かしら異物感を感じてコロコロするものだ。
俺は、天莉を真正面から見据えたまま、さてどうしたものかと思案したのだけれど。
(目をつぶってもらってフッと吹き飛ばすのが得策かな?)
そんなことを思って。
「お願い、天莉……」
――ちょっと目を閉じてくれるかな?
そう言おうと思ったのだけれど。
(え……)
俺がそこまで告げる前に天莉がギュッと目をつぶって。
その頬がほんのりと紅く色づいているのに気付いた俺は、ぷるんと濡れ光る天莉の唇にばかり目がいって、柄にもなく弱り果ててしまう。
(コラ俺! 今見るべきなのはまつ毛の方だろ!)
そんなことを思いながら。
けど、これは……どう見ても〝キス待ち〟にしか見えないんだけど?と、邪推してしまう。
今ここでいきなりキスしたりしたら、天莉は怒るだろうか?
そう思った俺は、わざとワンクッション置く意味もこめて眼鏡を外すと、ローテーブルの上へ載せた。
ガラス張りの天板と眼鏡のフレームが触れ合ったカチャッという微かな音は、きっと天莉にも聞こえているはずだ。
――眼鏡を外して、今からキミにキスするね? 嫌なら目を開けて?
俺はそんな合図を送ったつもりなんだけど。
天莉はピクッと小さく目蓋を震わせただけで、目を開けることはなかったから。
(ねぇ天莉。キミのその行動、自分に都合よく解釈するけど、構わないよね?)
俺は天莉の頬を包み込むついで。
そっとまつ毛へ掠めるように親指の腹を滑らせて埃を取り除いてやると、そのまま天莉の唇へやんわりとついばむような軽めのバードキスを落とした。
「ぁ、……んっ……」
チュッ、チュッ、と何度かそれを繰り返していたらら「やん、ダメっ、尽く……っ。くすぐったぃ……っ」とか。
それ、そんなとろけた顔で言われても、『気持ちいい、もっと……』の間違いだよね?と思わざるを得ないじゃないか。
こうなったらもう、キスだけじゃ終われないこと、きっと天莉も覚悟の上だよね?
俺は愛しい天莉の頬を包み込んだ両手のひらに気持ち力を込めると、「お願い、天莉。もっとして?って言って?」とおねだりした。
俺はね、知っているんだよ、天莉。
キミが俺のこういう懇願に、滅法弱いってこと。
【END】(2023/07/02)
夕飯後なんかも、少し前まではすぐにゲストルームへ引っ込んでいた天莉が、こんな風にごく自然な様子で俺のそばにいてくれる。
そんな、何てことのない時間がたまらなく心地いいと感じられる相手が、幼なじみの直樹や璃杜以外に出来るだなんて、人生何があるか分からないものだ。
リビングで、天莉と二人、横並びにソファへ腰掛けて。
尽はすぐ隣へ座る天莉の温もりに、フッと表情を緩めた。
「ね、いつも私が観たいのばかり優先してくれてるけど、尽くんは観たい番組とか……ホントにないの?」
天莉は動物番組と、恋愛もののドラマを好む。
今だって画面には、猫の親子の姿が映し出されていた。
俺は昔からそんなにテレビを観る方じゃなかったし、まぁ観てもせいぜい洋画なんかを語学の習練のためにオリジナル音声のまま流す程度。
天莉のように、純粋に内容を楽しんでいるのとは違ったから。
本当に天莉が喜ぶものを一緒に観るので全然構わなかった。
だが――。
そこでふとイタズラ心が湧いた俺は、天莉の耳元に唇を寄せてそっと囁いてみる。
「俺、実はホラー映画とか官能映画とか好きなんだけど、観たいって言ったら付き合ってくれるの?」
「――っ!」
もちろんそんなの真っ赤な嘘だし、正直前者は観たこともないジャンルだが、どちらも流せば天莉との距離をグッと近付けてくれること請け合いなはずだ。
「あ、あの、わ、私っ……」
ソワソワと視線を彷徨わせてにわかに焦り出す天莉が可愛くて、俺は心の中で一人ほくそ笑む。
(――おや?)
ふとそこで、わざとらしくじっと見つめ続けた天莉の横顔、くるんとした彼女の長めのまつ毛の上に、何かゴミのようなものが付いているのを発見した。
「ねぇ天莉、ちょっとこっち向いてくれる?」
声を掛けてグッと間近。
天莉の可愛い顔をこちら側へ向けるように指示して真正面から見つめたら、先の会話の流れもあって、天莉が不安そうに瞳を揺らせる。
そんな天莉のまつ毛の上、やっぱり透明な、ごくごく小さな糸屑みたいな埃が乗っかっているのが確認出来た。
(目に入ったら大変だ)
いくら小さくても、そういうのが目に入れば何かしら異物感を感じてコロコロするものだ。
俺は、天莉を真正面から見据えたまま、さてどうしたものかと思案したのだけれど。
(目をつぶってもらってフッと吹き飛ばすのが得策かな?)
そんなことを思って。
「お願い、天莉……」
――ちょっと目を閉じてくれるかな?
そう言おうと思ったのだけれど。
(え……)
俺がそこまで告げる前に天莉がギュッと目をつぶって。
その頬がほんのりと紅く色づいているのに気付いた俺は、ぷるんと濡れ光る天莉の唇にばかり目がいって、柄にもなく弱り果ててしまう。
(コラ俺! 今見るべきなのはまつ毛の方だろ!)
そんなことを思いながら。
けど、これは……どう見ても〝キス待ち〟にしか見えないんだけど?と、邪推してしまう。
今ここでいきなりキスしたりしたら、天莉は怒るだろうか?
そう思った俺は、わざとワンクッション置く意味もこめて眼鏡を外すと、ローテーブルの上へ載せた。
ガラス張りの天板と眼鏡のフレームが触れ合ったカチャッという微かな音は、きっと天莉にも聞こえているはずだ。
――眼鏡を外して、今からキミにキスするね? 嫌なら目を開けて?
俺はそんな合図を送ったつもりなんだけど。
天莉はピクッと小さく目蓋を震わせただけで、目を開けることはなかったから。
(ねぇ天莉。キミのその行動、自分に都合よく解釈するけど、構わないよね?)
俺は天莉の頬を包み込むついで。
そっとまつ毛へ掠めるように親指の腹を滑らせて埃を取り除いてやると、そのまま天莉の唇へやんわりとついばむような軽めのバードキスを落とした。
「ぁ、……んっ……」
チュッ、チュッ、と何度かそれを繰り返していたらら「やん、ダメっ、尽く……っ。くすぐったぃ……っ」とか。
それ、そんなとろけた顔で言われても、『気持ちいい、もっと……』の間違いだよね?と思わざるを得ないじゃないか。
こうなったらもう、キスだけじゃ終われないこと、きっと天莉も覚悟の上だよね?
俺は愛しい天莉の頬を包み込んだ両手のひらに気持ち力を込めると、「お願い、天莉。もっとして?って言って?」とおねだりした。
俺はね、知っているんだよ、天莉。
キミが俺のこういう懇願に、滅法弱いってこと。
【END】(2023/07/02)
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