210 / 264
【スタ特3】お前があいつに惚れたから
卵が先か鶏が先か
しおりを挟む
うちの父親・啓の右腕――伊藤雄太郎――の息子。
それが俺と同い年の伊藤直樹の立ち位置だった。
雄太郎は、息子――直樹を得ると同時に妻を亡くしていて。
以来、父の計らいで、うちの屋敷に住み込みの形で働くようになっていた。
父・雄太郎に連れられて、生まれて間もない頃に我が家へやって来た直樹は、それこそ俺の母を本当の母親のように慕って育ったし、母も自分に懐く直樹のことを、彼より半年ばかり早く生まれていた俺と、分け隔てることなく可愛がってくれて。
結果俺と直樹は兄弟のようにして育った、一般的な関係よりもディープな間柄の幼なじみだ。
そんな俺たちの間へ割り込むようにして、紅一点の璃杜が加わったのは俺と直樹が六歳になった時。
小学校への入学が機だった。
スクールバスを降りた途端。
俺たちの目の前でステップに足を引っ掛けて、顔面から地面へ盛大にビタン!とキスをした璃杜を見て、直樹が慌てて彼女を助け起こしたのがキッカケだった。
以後もことあるごとにしょっちゅうドジばかり踏んでは生傷の絶えない璃杜を、気が付けば世話焼きの直樹が常に気に掛けるようになっていて。
俺はそれに引っ張られるように、璃杜と直樹のそばにいた。
三人と言うのは厄介な数字だ。
これまでは何をするにも直樹のことを独り占め出来ていたのに。
璃杜が加わってからというもの、直樹の一番が璃杜へと移行したのが分かった。
俺はそれが物凄く気に入らなくて。
だけど璃杜はとにかく目が離せない女の子だったから……。仕方がないことだと自分に言い聞かせていた。
実際璃杜が加わっても、俺の中の優先順位の一番は相も変わらず直樹であることに変わりはなくて。
なのに直樹の中では手のかからない俺よりも、璃杜の方が上だなんて、面と向かっては言えないが、めちゃくちゃ悔しいじゃないか。
だが、そのことをどうしても認めたくなかった俺は、直樹への腹いせに璃杜の気を引こうと画策するようになった。
そうしてその度に、直樹に阻止されて睨まれるんだ。
「尽。遊びなら璃杜にちょっかいを掛けるな」
遊びでなければいいと言う直樹の口振りに、俺は璃杜のことを本気で好きだと思い込もうとしたのだが。
心というのは不思議なもので、そうしているうちに段々、俺は本気で璃杜のことを好きなんじゃないかと思うようになっていったのを覚えている。
卵が先か鶏が先か。
大事な友人を奪われたと言う、子供の幼稚な嫉妬心が生んだ紛い物の初恋。
それは高校生になる頃には、そこそこに立派な恋心に成長していたと思う。
今となってはあのころ抱いていた璃杜に対する気持ちが本物だったのか偽物だったのか、自分自身でもよく分からないのだ。
だが――。
結局直樹が俺に璃杜をマトモに口説かせなかったことを鑑みるに、きっと俺の気持ちは疑似恋愛で、本気ではなかったということなんだろう。
***
璃杜が絡むと熱くなりがちな直樹も、他のことならば割と冷静に物事を見られるらしい。
そのことに気が付いた俺は、いつしか璃杜以外の女の子たちと好んで遊ぶようになった。
俺が羽目を外し過ぎたら、絶妙のタイミングで直樹が必ずブレーキを掛けに来てくれるから。
その時だけは直樹の関心が俺に戻ってくるのを感じられるんだ。
そんな俺に、ことあるごとに、「本当バカなのか、尽。お前が女性にだらしなさ過ぎるから、毎度毎度僕が苦労させられるんだ」と直樹が怒ってくる。
だか、その原因が自分自身にあると、どうして思い至れないんだろう?
(バカなのはお前の方だ、直樹)
そんなことを打ち明けようものなら、俺の腐れ縁の悪友は、どんな顔をするだろうか。
そんな中、璃杜だけは、ひとり俺の本心を知っているみたいに「尽にも早く、本気で好きになれる人が出来るといいね」と微笑むんだ。
そうすればきっと、直樹の負担が減るのだと、璃杜は知っているみたいで。
そう。
俺の女好きは、直樹の関心を引きたいがためのカモフラージュだと、璃杜だけは見抜いているのだ。
(ホント、嘘みたいにドジなくせに勘だけは鋭くて食えない女――)
だからだろうか。
俺は初めて出会った時から璃杜のことを直樹の次に大事にしたいと思っていて、同時に心の底から壊してやりたいと思ってしまうくらい大嫌いなんだ。
END(2023/04/18)
それが俺と同い年の伊藤直樹の立ち位置だった。
雄太郎は、息子――直樹を得ると同時に妻を亡くしていて。
以来、父の計らいで、うちの屋敷に住み込みの形で働くようになっていた。
父・雄太郎に連れられて、生まれて間もない頃に我が家へやって来た直樹は、それこそ俺の母を本当の母親のように慕って育ったし、母も自分に懐く直樹のことを、彼より半年ばかり早く生まれていた俺と、分け隔てることなく可愛がってくれて。
結果俺と直樹は兄弟のようにして育った、一般的な関係よりもディープな間柄の幼なじみだ。
そんな俺たちの間へ割り込むようにして、紅一点の璃杜が加わったのは俺と直樹が六歳になった時。
小学校への入学が機だった。
スクールバスを降りた途端。
俺たちの目の前でステップに足を引っ掛けて、顔面から地面へ盛大にビタン!とキスをした璃杜を見て、直樹が慌てて彼女を助け起こしたのがキッカケだった。
以後もことあるごとにしょっちゅうドジばかり踏んでは生傷の絶えない璃杜を、気が付けば世話焼きの直樹が常に気に掛けるようになっていて。
俺はそれに引っ張られるように、璃杜と直樹のそばにいた。
三人と言うのは厄介な数字だ。
これまでは何をするにも直樹のことを独り占め出来ていたのに。
璃杜が加わってからというもの、直樹の一番が璃杜へと移行したのが分かった。
俺はそれが物凄く気に入らなくて。
だけど璃杜はとにかく目が離せない女の子だったから……。仕方がないことだと自分に言い聞かせていた。
実際璃杜が加わっても、俺の中の優先順位の一番は相も変わらず直樹であることに変わりはなくて。
なのに直樹の中では手のかからない俺よりも、璃杜の方が上だなんて、面と向かっては言えないが、めちゃくちゃ悔しいじゃないか。
だが、そのことをどうしても認めたくなかった俺は、直樹への腹いせに璃杜の気を引こうと画策するようになった。
そうしてその度に、直樹に阻止されて睨まれるんだ。
「尽。遊びなら璃杜にちょっかいを掛けるな」
遊びでなければいいと言う直樹の口振りに、俺は璃杜のことを本気で好きだと思い込もうとしたのだが。
心というのは不思議なもので、そうしているうちに段々、俺は本気で璃杜のことを好きなんじゃないかと思うようになっていったのを覚えている。
卵が先か鶏が先か。
大事な友人を奪われたと言う、子供の幼稚な嫉妬心が生んだ紛い物の初恋。
それは高校生になる頃には、そこそこに立派な恋心に成長していたと思う。
今となってはあのころ抱いていた璃杜に対する気持ちが本物だったのか偽物だったのか、自分自身でもよく分からないのだ。
だが――。
結局直樹が俺に璃杜をマトモに口説かせなかったことを鑑みるに、きっと俺の気持ちは疑似恋愛で、本気ではなかったということなんだろう。
***
璃杜が絡むと熱くなりがちな直樹も、他のことならば割と冷静に物事を見られるらしい。
そのことに気が付いた俺は、いつしか璃杜以外の女の子たちと好んで遊ぶようになった。
俺が羽目を外し過ぎたら、絶妙のタイミングで直樹が必ずブレーキを掛けに来てくれるから。
その時だけは直樹の関心が俺に戻ってくるのを感じられるんだ。
そんな俺に、ことあるごとに、「本当バカなのか、尽。お前が女性にだらしなさ過ぎるから、毎度毎度僕が苦労させられるんだ」と直樹が怒ってくる。
だか、その原因が自分自身にあると、どうして思い至れないんだろう?
(バカなのはお前の方だ、直樹)
そんなことを打ち明けようものなら、俺の腐れ縁の悪友は、どんな顔をするだろうか。
そんな中、璃杜だけは、ひとり俺の本心を知っているみたいに「尽にも早く、本気で好きになれる人が出来るといいね」と微笑むんだ。
そうすればきっと、直樹の負担が減るのだと、璃杜は知っているみたいで。
そう。
俺の女好きは、直樹の関心を引きたいがためのカモフラージュだと、璃杜だけは見抜いているのだ。
(ホント、嘘みたいにドジなくせに勘だけは鋭くて食えない女――)
だからだろうか。
俺は初めて出会った時から璃杜のことを直樹の次に大事にしたいと思っていて、同時に心の底から壊してやりたいと思ってしまうくらい大嫌いなんだ。
END(2023/04/18)
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【完結】もう二度と離さない~元カレ御曹司は再会した彼女を溺愛したい
魚谷
恋愛
フリーライターをしている島原由季(しまばらゆき)は取材先の企業で、司馬彰(しばあきら)と再会を果たす。彰とは高校三年の時に付き合い、とある理由で別れていた。
久しぶりの再会に由季は胸の高鳴りを、そして彰は執着を見せ、二人は別れていた時間を取り戻すように少しずつ心と体を通わせていく…。
R18シーンには※をつけます
作家になろうでも連載しております
黒王子の溺愛は続く
如月 そら
恋愛
晴れて婚約した美桜と柾樹のラブラブ生活とは……?
※こちらの作品は『黒王子の溺愛』の続きとなります。お読みになっていない方は先に『黒王子の溺愛』をお読み頂いた方が、よりお楽しみ頂けるかと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる