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(24)尽の正体
田母神か高嶺か
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高校三年生のとき、進路希望調査票を前にそんな思いを両親へ打ち明けた尽に、父・啓は、進学を機に、母親の実家――高嶺家の養子に入るか?と提案してくれた。
親族の中に跡取り息子の尽を、田母神姓でなくすことに反対する者がいなかったと言えば嘘になる。
だが、その方が尽を生き生きさせると言うのならそれで構わないと母・美羽とも意見が一致したと言われて。
それ以来ずっと。
尽は田母神尽ではなく、高嶺尽として生きてきた。
いずれは田母神姓に戻るも良し。
尽が望むならば高嶺のまま後を継ぐのでも構わないと、啓からは言われているのだが、尽自身まだどうすべきか結論を出しあぐねている。
***
尽が、田母神の威を借りずとも自分の実力だけでどんどんアスマモル薬品の中で居場所を開拓していったのは周知の沙汰だ。
二十代と言う若さで開発研究部所長まで昇りつめたのは尽自身の実力で、啓は一切手心を加えていないと天莉に話してくれた。
アスマモルでの成果は知らないが、ミライでの尽の活躍は天莉だって知っている。
尽が、社員一人一人の顔と名前や所属部署を熟知していることにも驚かされたし、恐らくそのために尽は人知れず努力を重ねていたことだろう。
そんな、何もかもにおいて順風満帆に見えた尽が、初めて辛酸を舐めたのが、今回の試薬の情報漏洩問題だった。
尽は今まで一度も頼ったことのなかったアスマモル薬品の社長――父・啓に頭を下げ、この件の収拾は自分に一任して欲しいと願い出たらしい。
薬の流れ先として突き止めた子会社・株式会社ミライへ、ある程度の権限を持つポストでの出向を手配してもらったのも、それまで父の力を借りずにやって来た尽にとっては苦渋の選択だったそうだ。
けれど、プライドよりも何よりも、事態を収めることに全振りしたかったのだと尽が言って。
父の片腕としてずっとアスマモル薬品にいた直樹の父・伊藤雄太郎が、啓がミライを立ち上げた時に社長として就任していたことも知っていた尽は、かつては幼なじみの直樹とともに田母神邸の一画に家族同然で住んでいた第二の父・雄太郎にも頭を下げた。
直樹が生まれると同時に妻を亡くして苦しんでいた雄太郎に手を差し伸べたのは尽の父・啓だ。
母親の温もりを知らない直樹に、母親代わりをしてくれて、直樹より数か月前に生まれていた尽と同じように接してくれた美羽にも恩義を感じていた雄太郎が、自身もまた我が子同然に可愛がってきた尽の申し出を断るはずがなかった。
親族の中に跡取り息子の尽を、田母神姓でなくすことに反対する者がいなかったと言えば嘘になる。
だが、その方が尽を生き生きさせると言うのならそれで構わないと母・美羽とも意見が一致したと言われて。
それ以来ずっと。
尽は田母神尽ではなく、高嶺尽として生きてきた。
いずれは田母神姓に戻るも良し。
尽が望むならば高嶺のまま後を継ぐのでも構わないと、啓からは言われているのだが、尽自身まだどうすべきか結論を出しあぐねている。
***
尽が、田母神の威を借りずとも自分の実力だけでどんどんアスマモル薬品の中で居場所を開拓していったのは周知の沙汰だ。
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尽が、社員一人一人の顔と名前や所属部署を熟知していることにも驚かされたし、恐らくそのために尽は人知れず努力を重ねていたことだろう。
そんな、何もかもにおいて順風満帆に見えた尽が、初めて辛酸を舐めたのが、今回の試薬の情報漏洩問題だった。
尽は今まで一度も頼ったことのなかったアスマモル薬品の社長――父・啓に頭を下げ、この件の収拾は自分に一任して欲しいと願い出たらしい。
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けれど、プライドよりも何よりも、事態を収めることに全振りしたかったのだと尽が言って。
父の片腕としてずっとアスマモル薬品にいた直樹の父・伊藤雄太郎が、啓がミライを立ち上げた時に社長として就任していたことも知っていた尽は、かつては幼なじみの直樹とともに田母神邸の一画に家族同然で住んでいた第二の父・雄太郎にも頭を下げた。
直樹が生まれると同時に妻を亡くして苦しんでいた雄太郎に手を差し伸べたのは尽の父・啓だ。
母親の温もりを知らない直樹に、母親代わりをしてくれて、直樹より数か月前に生まれていた尽と同じように接してくれた美羽にも恩義を感じていた雄太郎が、自身もまた我が子同然に可愛がってきた尽の申し出を断るはずがなかった。
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