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(24)尽の正体
啓と尽
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せめて検査着に着替える前だったなら、もう少しまともな応対が出来たかも知れないけれど、着替える際、下着も取るように言われていたから。
そのことを意識した天莉は、慌てて胸の前で手をクロスさせて眼前の男を見上げた。
「……父さん、検査が終わるまで待てなかったんですか?」
尽が、クローゼットから天莉の上着を取って来て羽織らせてくれたことに、心底ホッとした天莉だ。
それと同時、尽の言葉を頭の中で反芻して。
「えっ? 尽くんの……っ!?」
その言葉の意味を飲み込むなり慌ててビシッと背筋を伸ばしたら、
「ああ、そんなに畏まらないで?」
恐縮する余り狼狽える天莉を片手を上げて制しながら、眼前の男がクスッと笑った。その表情が、尽にとても似ていることに今更のように気付かされた天莉だ。
(あ。尽くんに似てたから私……)
尽の父親を一目見た瞬間、かっこいいと思ってしまって落ち着かなかったのだ。
「尽の父です」
言って手を差しだされた天莉は、慌ててその手を握り返そうとして。
「必要ない」
尽にスッと遮られてしまう。
「直樹が言っていた通りの溺愛ぶりだね、尽」
ククッと笑いながら手を引っ込めた尽の父親が、代わりに名刺を差し出してきたから、天莉は今度こそいそいそとそれを受け取った。
小さな紙片に書かれた内容へ天莉が視線を落とすより先に「アスマモル薬品工業株式会社の代表取締役社長をしております、田母神啓と申します」と名乗られて。
天莉は「えっ」と驚きの声を上げた。
***
尽のことを〝尽ちゃん〟と呼ぶ弁護士の桃坂正二郎と、株式会社ミライ社長の伊藤雄太郎、そしてアスマモル薬品社長の田母神啓は高校時代の同級生だ。
アスマモル薬品の跡取り息子だった田母神啓と、一般家庭育ちの伊藤雄太郎、代々弁護士一家の桃坂正二郎には一見接点がなさそうに見える。
だが、三人とも高校ではテニス部に所属していて、そこで仲良くなったらしい。
大学では各々進路が違ってバラバラになった三人だが、大人になって高校の同窓会で再会したのが縁で、交流が再会した。
皆、地元で働いていたのも良かったらしい。
再会当時、啓はアスマモル薬品の副社長を、雄太郎は地元議員の議員秘書を、正二郎は父親が営む弁護士事務所で弁護士をしていた。
父・啓から、跡取り息子として会社に入ることの良い点はもちろんのこと、それ故の面倒臭さを散々聞かされて育ってきた尽は、親の七光りと言われるのが心底嫌だった。
アスマモル薬品の跡継ぎ息子であることをハッキリと理解した高校生の頃には、田母神の人間であることを公言したくないと考えるようになっていた。
そのことを意識した天莉は、慌てて胸の前で手をクロスさせて眼前の男を見上げた。
「……父さん、検査が終わるまで待てなかったんですか?」
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それと同時、尽の言葉を頭の中で反芻して。
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その言葉の意味を飲み込むなり慌ててビシッと背筋を伸ばしたら、
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(あ。尽くんに似てたから私……)
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「尽の父です」
言って手を差しだされた天莉は、慌ててその手を握り返そうとして。
「必要ない」
尽にスッと遮られてしまう。
「直樹が言っていた通りの溺愛ぶりだね、尽」
ククッと笑いながら手を引っ込めた尽の父親が、代わりに名刺を差し出してきたから、天莉は今度こそいそいそとそれを受け取った。
小さな紙片に書かれた内容へ天莉が視線を落とすより先に「アスマモル薬品工業株式会社の代表取締役社長をしております、田母神啓と申します」と名乗られて。
天莉は「えっ」と驚きの声を上げた。
***
尽のことを〝尽ちゃん〟と呼ぶ弁護士の桃坂正二郎と、株式会社ミライ社長の伊藤雄太郎、そしてアスマモル薬品社長の田母神啓は高校時代の同級生だ。
アスマモル薬品の跡取り息子だった田母神啓と、一般家庭育ちの伊藤雄太郎、代々弁護士一家の桃坂正二郎には一見接点がなさそうに見える。
だが、三人とも高校ではテニス部に所属していて、そこで仲良くなったらしい。
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父・啓から、跡取り息子として会社に入ることの良い点はもちろんのこと、それ故の面倒臭さを散々聞かされて育ってきた尽は、親の七光りと言われるのが心底嫌だった。
アスマモル薬品の跡継ぎ息子であることをハッキリと理解した高校生の頃には、田母神の人間であることを公言したくないと考えるようになっていた。
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