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(18)胸騒ぎ

金銭感覚がおかしい

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 何せここのブランドの服は、一着が最低でも五万円はくだらない品ばかりなのだ。

 そんなものを何着も買われたらたまったものではない。

 そもそもそんなに大量の服を持ち帰って、一体どこへ仕舞うの!?と口にしそうになった天莉あまりは、じんのマンションがだだっぴろかったことを思い出した。

 そう。それこそ、収納スペースなんて作ろうと思えばいくらでも出来てしまえそうなほどに。

 それに――。

 そんな要らないことを口走ろうものなら、『じゃあ収納が沢山ある家に引っ越そうか』とか言い出しかねないとも思って。

(きっ、金銭感覚がめちゃめちゃおかしいのよ、尽くん)

 天莉と両想いになってからの尽は、天莉のためと銘打って使おうとする金額の桁が世間様とは何桁もズレているのをひしひしと実感させられまくりの天莉だ。

だってそうだもん)

 オーダーメイド品で返品が利かないと言われたから受け取りはしたけれど……。

 左手薬指にキラリと光る、ダイヤと緑水晶グリーンアメジストPrasioliteプラシオライト)があしらわれた指輪を見て、天莉あまりは小さく吐息を落とした。

 この指輪、実はプラチナの台座部分を横から見ると、猫の横顔としっぽが隠されている。
 上から見る分には普通の婚約指輪にしか見えない細工なのだけれど、じんから造形の種明かしをされた天莉は、その愛らしさに思わず「可愛い」と心奪われて。ついうっかり受け取ってしまったのだ。

 だが――。

 後に鑑定書をぼんやり眺めていて、はまっている石が4C(重量CaratColor輝きCut透明度Clarity)評価のかなり高い高額なダイヤモンドと、ある一定の鉱山でのみ産出される紫水晶アメジストを加熱処理することで得られる希少石の緑水晶プラシオライトだと知って、背筋にゾワリと鳥肌が立った。

 当然一度受け取ってしまったものを、尽が返品させてくれるはずもなく――。

 そればかりか、『天莉が受け取ってくれないなら意味がないし、別のものを用意し直そう』とか恐ろしいことを言い出したので、天莉は慌てて指にはめたのだ。

 そんなこんなで、天莉はだと尽が言った、彼のご両親の正体を知らされたら卒倒してしまうかも知れないと思っている。


***


 会社主催の親睦会当日――。

「今日は俺、ずっと予定が入ってて天莉あまりのそばに殆どいられそうにないんだ。だから……まぁ、出来ればで構わないんだが……その……なるべく俺の目が届く範囲へいるようにしてくれないか? ――ほら、時間が空いた時、俺がすぐにキミを捕まえられるように」

 じんにしてはやけに煮え切らない吶々とつとつとした口調に、彼の不安な気持ちが伝染してくるようで、天莉もソワソワしてしまう。

 今日は土曜日で、本来なら会社は休みだ。

 だが、月曜が振替休日になる代わりに、午前十時からホテルの会場を貸し切って行われる親睦会には、仕事の一環として社員は全員強制参加のお達しが出ている。
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