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(16)私だけの呼び方*
もう逃げたりしないから
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肩口を過ぎた天莉の髪の毛が、濡れて首筋に張り付いているのを色っぽいな……だなんて眺めつつ返事をしたら、「わ、私だけ裸は……恥ずかしい……です……」と消え入りそうな声で訴えてくる。
ともすると水音にかき消されてしまいそうな小声だったけれど、尽にはその声がしっかりと聞こえて。
「それは俺にも服を脱いで?っておねだりだと解釈したんでいい?」
わざと確認するように天莉の要望を具体的に言語化したら、予想に反して素直にコクコクとうなずいてきた。
きっとそれだけ現状が限界なんだろう。
「……もう逃げたり……しない、から」
こんなにびしょ濡れにされてしまっては、天莉の性格からして床を濡らしながら走り去るとか無理なのは分かり切っている。
なのに、わざわざそれを律儀に口の端に乗せてくるところが本当に好ましいなと思った尽だ。
「分かった。じゃあちょっと脱いでくるから自分でトリートメントをしながら待っていてくれる?」
シャンプーと対になったトリートメントのボトルを天莉の目の前へ来るよう床上に置いたら、うつむいたままの天莉が「はい」と、よく出来た生徒みたいに良い返事をして。
尽はそんな天莉に「すぐ戻るからね」と先生みたいに声を掛けると浴室を後にした。
***
(はぁぁぁぁー。もぅ! 何なの何なのっ!)
尽が浴室を出て行ってすぐ、天莉はシャワーの音に紛れるように大きく吐息を落とした。
尽が言ったようにトリートメントのボトルを手にして、身体の向きをくるりと回転させて鏡に向き直ったのだけれど。
熱線でも入っているのか、湯気がどんなに立ち込めても天莉のアパートの浴室にある鏡みたいに曇ったりしない目の前の鏡面に、濡れそぼった真っ白なタオルがぴったりと身体に張り付いた裸同然の自分が映っていた。
(フェイスタオルじゃお尻とか丸見えだしっ。何でバスタオルをくれないのっ!)
わざわざ半身だけ隠せる小さいのを渡してくるあたりが、温情と見せ掛けてしっかり意地悪だと思ってしまった天莉だ。
そもそも!
お酒に飲まれてしまった自分も良くなかったけれど、今はすっかり素面なのに、尽はそれを一切認めてくれなかった。
何だかんだでここに引き留められた時にもそうだったけれど、尽は天莉を心配していると言う体で、自分の要望を通すのがうまい気がする。
両想いになった今、元気になったのでサヨナラとここを出て行くのは違う気もするけれど、実際体調はすこぶるいいし、尽が最初に告げたように監視の目がなくったってご飯だってしっかり食べられるようになっている天莉だ。
だけど、一人でだってご飯が食べられるようになってからも、いつの間にか生活能力皆無の尽のためにご飯を作らないといけないと言う気持ちにさせられて……お暇しそびれてしまっている。
ともすると水音にかき消されてしまいそうな小声だったけれど、尽にはその声がしっかりと聞こえて。
「それは俺にも服を脱いで?っておねだりだと解釈したんでいい?」
わざと確認するように天莉の要望を具体的に言語化したら、予想に反して素直にコクコクとうなずいてきた。
きっとそれだけ現状が限界なんだろう。
「……もう逃げたり……しない、から」
こんなにびしょ濡れにされてしまっては、天莉の性格からして床を濡らしながら走り去るとか無理なのは分かり切っている。
なのに、わざわざそれを律儀に口の端に乗せてくるところが本当に好ましいなと思った尽だ。
「分かった。じゃあちょっと脱いでくるから自分でトリートメントをしながら待っていてくれる?」
シャンプーと対になったトリートメントのボトルを天莉の目の前へ来るよう床上に置いたら、うつむいたままの天莉が「はい」と、よく出来た生徒みたいに良い返事をして。
尽はそんな天莉に「すぐ戻るからね」と先生みたいに声を掛けると浴室を後にした。
***
(はぁぁぁぁー。もぅ! 何なの何なのっ!)
尽が浴室を出て行ってすぐ、天莉はシャワーの音に紛れるように大きく吐息を落とした。
尽が言ったようにトリートメントのボトルを手にして、身体の向きをくるりと回転させて鏡に向き直ったのだけれど。
熱線でも入っているのか、湯気がどんなに立ち込めても天莉のアパートの浴室にある鏡みたいに曇ったりしない目の前の鏡面に、濡れそぼった真っ白なタオルがぴったりと身体に張り付いた裸同然の自分が映っていた。
(フェイスタオルじゃお尻とか丸見えだしっ。何でバスタオルをくれないのっ!)
わざわざ半身だけ隠せる小さいのを渡してくるあたりが、温情と見せ掛けてしっかり意地悪だと思ってしまった天莉だ。
そもそも!
お酒に飲まれてしまった自分も良くなかったけれど、今はすっかり素面なのに、尽はそれを一切認めてくれなかった。
何だかんだでここに引き留められた時にもそうだったけれど、尽は天莉を心配していると言う体で、自分の要望を通すのがうまい気がする。
両想いになった今、元気になったのでサヨナラとここを出て行くのは違う気もするけれど、実際体調はすこぶるいいし、尽が最初に告げたように監視の目がなくったってご飯だってしっかり食べられるようになっている天莉だ。
だけど、一人でだってご飯が食べられるようになってからも、いつの間にか生活能力皆無の尽のためにご飯を作らないといけないと言う気持ちにさせられて……お暇しそびれてしまっている。
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