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(15)初めてのマリアージュ

全部直樹の受け売り

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「あの……でしたら、伊藤さんとじんは……いつぐらいから一緒にいらっしゃるんですか?」

(もしかしたら二人はかなり幼い頃から一緒にいて、伊藤さんが常務を兄のように甘やかしていたのかも?)

 ふと思い立ってそんなことを尋ねた天莉あまりに、「ん? 直樹なおとは……赤ん坊の頃からずっと一緒に育ってきたけど……。それがどうかしたのかね?」と何でもないことのように尽がさらりと答える。

「えっ?」

 それではまるで……。

「お二人はご兄弟なんですか?」

 先ほど尽は一人っ子だと言っていたのに、ついそんな問いを投げ掛けてしまった天莉だ。

「ん? ――まさか。俺と直樹なおは赤の他人だよ?」

 そこまで言って、天莉の疑問に思い当たったのだろう。

「あー。まぁ色々事情があってね。直樹なおのお父上がうちの実家に住み込みで働いてたんだ。その絡みで直樹なおとは兄弟みたいにひとつ屋根の下で一緒に育った。それだけのことだよ」

 と、尽が付け加えてくれて。

 それを聞いた天莉はますます訳が分からなくなった。

 ただ、少なくとも天莉の実家とは違って、尽の生家は他所よその一家が住み込み出来てしまうほど大きなお屋敷だということは理解した天莉だ。

(薄々感じてたけど……尽って……ひょっとしてどこかのお金持ちの御曹司さんとかなんじゃ……)

 だとしたら、天莉はとんでもない人のプロポーズを受けてしまったのかも知れない。

 そう思ってオロオロと尽を見上げた天莉に、

「まぁその辺の話は俺の実家へ行くまでにおいおい説明するから。――今はとりあえずどら焼きを食う算段をしないか?」

 尽があからさまに話題を変えたのが分かった。


***


 さあ〝ラムくんドラ〟を食べようと言う段になって、じんがパントリーの奥の方から持ち出して来たのは何故か日本酒で。

「これは岐阜の方の古酒でね、三年もの。熟成感があって、甘いものにもよく合うよ」

「へっ?」

 天莉あまりの中ではどら焼きと言えば日本茶。緑茶もいいけれど渋めのほうじ茶なんかを合わせても美味しいイメージ。
 日本茶以外なら、紅茶や珈琲も有りだと思う。
 だけど、まさか酒が出てくるなんて思わなかったし、そんな選択肢ははなからなかった。

「どら焼きに……お酒……?」

「ああ、結構合うぞ? あと、この酒はかんを付けるとまろみが出るとか何とか。――まぁ全部直樹なおの受け売りなんだがね」

 誰かに教えてもらった知識だなんて、きっと言われなければ分からない。
 黙っていてもいいことを、尽はさらりと直樹からの入れ知恵だと告白すると、少し照れたように笑った。

「はぅっ」

 その笑顔にまたしてもキュンとして、思わず変な声が漏れてしまった天莉だ。

「天莉? ひょっとして……俺の知識じゃなくてガッカリした?」

 途端不安げに眉根を寄せる尽に、天莉はふるふると首を横に振りながら、むしろそんなところがたまらなく大好きです!と叫びたい衝動に駆られる。

 元カレの博視ひろしは知らないことも知っているかのように大風呂敷を広げて話すところがあるタイプだったので、一見プライドが高そうに見える尽の、こういう素直な一面がすごくこのましく思えてしまったのだ。
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