94 / 264
(13)ネコ・猫パニック
尽の、信じがたい行動
しおりを挟む
天莉の真意に気付いてくれた母・祥子が、すぐさま寿史の手に触れて父を制してくれて。
天莉は母親に〝有難う〟という気持ちを込めてコクッとうなずいた。
「だけどね、比べる度に気付かされるの。私が博視にどれだけ蔑ろにされていたか。じ、んが私のことをどれだけ大切にしてくれているか。尽は一番しんどい時に私のそばにいてくれて、支えてくれた。私、尽と一緒にいたら、味気なかったはずのご飯が美味しいって思えるの。……だからね、依存って言われたらそれまでかも知れないけれど。私、尽と一緒にいたい。彼のこと、もっともっと知っていきたい。それに、順番はアベコベかもしれないけれど、一日も早く博視よりも尽の方が何億倍も大好きだって……胸を張って言えるようになりたいの」
本当はもう、とっくの昔に天莉の中で尽は博視を越えている。
だけど――。
それを尽に気付かれたら駄目だと思って。
『偽装だと話したのに、本気で惚れるとか……キミは本当に重い女だね』などと思われたくない一心で、今はまだ、博視への気持ちの方が上なのだと、必死にアピールした天莉だ。
「――天莉。現状では元カレへの気持ちの方が、俺への気持ちより上ってことで合ってる?」
だから、尽が天莉の意図したところに気付いてそう問い掛けてくれた時、天莉は本心を押し殺して懸命にうなずいたのだ。
「そうか――」
だけど、尽がつぶやいたその声が、何故か心にズンと圧し掛かってくるように聞こえたのは気のせいだろうか?
思わず尽を見詰めた天莉に、だが次の瞬間、尽は信じられない行動に出て天莉を戸惑わせた。
***
「今日俺は、天莉さんとの結婚を許可して頂くつもりでここへ参りました。話の流れ次第では、こちらの書類の証人欄にサインを頂こうかとも――」
尽は、スーツの内ポケットから綺麗に折り畳んだ書類を取り出した。
折りたたまれたままの紙には、薄っすらと猫の模様が透けて見えて。
天莉はいま尽が手にしている書類は、課長に書かせたフェイクの方の紙片ではなく、証人欄が空欄のままになっている猫柄の婚姻届の方だと確信した。
(でも、今の話の流れでそれを取り出すのは、いくら何でも強引過ぎない?)
全ては、素直になり切れない――と言うより尽の偽装の恋人役を演じ切れない自分のせいなのだということを棚上げして、そんな懸念を抱いてしまった天莉だ。
「俺は……確かに最初は天莉さんの見た目を好きになりました。ですが一緒に過ごすうち、お嬢さんの内面にも強く惹かれている自分に気付かされたんです。正直天莉さん以上に愛せる女性とは、今後一生出会えないとも確信しています。なので……この婚姻届を天莉さんと二人で書いたとき、俺はとても嬉しかったんです。交際期間の長さなど関係なく、彼女も俺と同じ気持ちでいてくれると信じていましたので。ですが、どうやら俺の勘違いだったようです」
そこで一旦言葉を止めた尽は、手にしたままの婚姻届をビリッと真っ二つに引き裂いてしまった。
余りに躊躇いのないその動作に、天莉は思わず尽の方へ身を乗り出して。
「イヤ!」
言って、引き裂かれた紙片を持ったままの尽の手を、グッと握りしめた。
天莉は母親に〝有難う〟という気持ちを込めてコクッとうなずいた。
「だけどね、比べる度に気付かされるの。私が博視にどれだけ蔑ろにされていたか。じ、んが私のことをどれだけ大切にしてくれているか。尽は一番しんどい時に私のそばにいてくれて、支えてくれた。私、尽と一緒にいたら、味気なかったはずのご飯が美味しいって思えるの。……だからね、依存って言われたらそれまでかも知れないけれど。私、尽と一緒にいたい。彼のこと、もっともっと知っていきたい。それに、順番はアベコベかもしれないけれど、一日も早く博視よりも尽の方が何億倍も大好きだって……胸を張って言えるようになりたいの」
本当はもう、とっくの昔に天莉の中で尽は博視を越えている。
だけど――。
それを尽に気付かれたら駄目だと思って。
『偽装だと話したのに、本気で惚れるとか……キミは本当に重い女だね』などと思われたくない一心で、今はまだ、博視への気持ちの方が上なのだと、必死にアピールした天莉だ。
「――天莉。現状では元カレへの気持ちの方が、俺への気持ちより上ってことで合ってる?」
だから、尽が天莉の意図したところに気付いてそう問い掛けてくれた時、天莉は本心を押し殺して懸命にうなずいたのだ。
「そうか――」
だけど、尽がつぶやいたその声が、何故か心にズンと圧し掛かってくるように聞こえたのは気のせいだろうか?
思わず尽を見詰めた天莉に、だが次の瞬間、尽は信じられない行動に出て天莉を戸惑わせた。
***
「今日俺は、天莉さんとの結婚を許可して頂くつもりでここへ参りました。話の流れ次第では、こちらの書類の証人欄にサインを頂こうかとも――」
尽は、スーツの内ポケットから綺麗に折り畳んだ書類を取り出した。
折りたたまれたままの紙には、薄っすらと猫の模様が透けて見えて。
天莉はいま尽が手にしている書類は、課長に書かせたフェイクの方の紙片ではなく、証人欄が空欄のままになっている猫柄の婚姻届の方だと確信した。
(でも、今の話の流れでそれを取り出すのは、いくら何でも強引過ぎない?)
全ては、素直になり切れない――と言うより尽の偽装の恋人役を演じ切れない自分のせいなのだということを棚上げして、そんな懸念を抱いてしまった天莉だ。
「俺は……確かに最初は天莉さんの見た目を好きになりました。ですが一緒に過ごすうち、お嬢さんの内面にも強く惹かれている自分に気付かされたんです。正直天莉さん以上に愛せる女性とは、今後一生出会えないとも確信しています。なので……この婚姻届を天莉さんと二人で書いたとき、俺はとても嬉しかったんです。交際期間の長さなど関係なく、彼女も俺と同じ気持ちでいてくれると信じていましたので。ですが、どうやら俺の勘違いだったようです」
そこで一旦言葉を止めた尽は、手にしたままの婚姻届をビリッと真っ二つに引き裂いてしまった。
余りに躊躇いのないその動作に、天莉は思わず尽の方へ身を乗り出して。
「イヤ!」
言って、引き裂かれた紙片を持ったままの尽の手を、グッと握りしめた。
1
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛
玖羽 望月
恋愛
雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。
アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。
恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。
戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。
一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。
「俺が勝ったら唇をもらおうか」
――この駆け引きの勝者はどちら?
*付きはR描写ありです。
エブリスタにも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる