81 / 264
(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します
とりあえず上がってもらってから話そう
しおりを挟む
なのに背後から吹き抜けた風が、尽が身に纏う香水――一緒に住むようになってBVLGARIのプールオム オードトワレという銘柄だと知った――の香りをふわっと天莉の鼻先へ運んで追い打ちをかけてくるから。
天莉の心臓は今にも口から飛び出してしまいそうに忙しなく飛び跳ねる。
「あ、あの……こちら――」
お陰様で自分の実家なのに、やたらと緊張して震える声で彼を紹介する羽目になった天莉だ。
だが、天莉のテンパり具合を察してくれたのだろう。
「初めまして。天莉さんと同じ会社で常務取締役をしております高嶺尽と申します」
尽が天莉の声を引き継ぐように、落ち着いた声音で自ら自己紹介をしてくれた。
安定の低音イケボなバリトンボイスは、それほど声を張ったわけでもないのによく通って。
名乗りを上げるなり、新入社員へお辞儀の仕方を教える際に使用するテキストさながら、上体を三〇度ほど倒して優雅な敬礼をした尽が、天莉には物凄くカッコよく見えた。
高嶺尽は、どんな時も立ち居振る舞いに気品があって美しい。
そんな尽に、その場にいた全員が気圧されたかと思いきや、母・祥子だけは違ったようで。
「常、務……取締、役? え? えっ⁉︎」
てっきり娘と同期の男性がくるものとばかり思い込んでいたのだから、尽の自己紹介を聞くなり祥子が戸惑いの声を上げたのは仕方がないことなのかも知れない。
そんな祥子の肩へポンと手を載せると、父・寿史が、「まぁ玄関先で立ち話も何だ。とりあえず上がってもらってから話そう」と母を促した。
その声に、祥子が「あ、ああ、それもそうね」と慌てて、「どうぞ」と言ってくれたから、天莉と尽はやっと玉木家の敷居をまたぐことが出来た。
***
天莉の実家は、元々は市役所近くのマンションだった。
だが、父に倣って地元市役所へ就職した天莉の二つ下の弟・天城が、去年幼なじみで同僚の女性と結婚したのを機にそちらは弟夫婦へ明け渡し、今は庭付きの一軒家に移り住んでいる。
今回天莉と尽が訪ねた、日本家屋然としたこぢんまりとした平屋は、家のすぐ前がバス停。
加えて徒歩数分圏内に総合病院などもあるといった結構好条件の立地で。
最初、町の中心部にあるマンションを弟夫婦に譲ると父母から聞かされたとき、今から年老いていく両親にこそ、元のマンションがふさわしいと思った天莉だったのだけれど――。
天莉の心臓は今にも口から飛び出してしまいそうに忙しなく飛び跳ねる。
「あ、あの……こちら――」
お陰様で自分の実家なのに、やたらと緊張して震える声で彼を紹介する羽目になった天莉だ。
だが、天莉のテンパり具合を察してくれたのだろう。
「初めまして。天莉さんと同じ会社で常務取締役をしております高嶺尽と申します」
尽が天莉の声を引き継ぐように、落ち着いた声音で自ら自己紹介をしてくれた。
安定の低音イケボなバリトンボイスは、それほど声を張ったわけでもないのによく通って。
名乗りを上げるなり、新入社員へお辞儀の仕方を教える際に使用するテキストさながら、上体を三〇度ほど倒して優雅な敬礼をした尽が、天莉には物凄くカッコよく見えた。
高嶺尽は、どんな時も立ち居振る舞いに気品があって美しい。
そんな尽に、その場にいた全員が気圧されたかと思いきや、母・祥子だけは違ったようで。
「常、務……取締、役? え? えっ⁉︎」
てっきり娘と同期の男性がくるものとばかり思い込んでいたのだから、尽の自己紹介を聞くなり祥子が戸惑いの声を上げたのは仕方がないことなのかも知れない。
そんな祥子の肩へポンと手を載せると、父・寿史が、「まぁ玄関先で立ち話も何だ。とりあえず上がってもらってから話そう」と母を促した。
その声に、祥子が「あ、ああ、それもそうね」と慌てて、「どうぞ」と言ってくれたから、天莉と尽はやっと玉木家の敷居をまたぐことが出来た。
***
天莉の実家は、元々は市役所近くのマンションだった。
だが、父に倣って地元市役所へ就職した天莉の二つ下の弟・天城が、去年幼なじみで同僚の女性と結婚したのを機にそちらは弟夫婦へ明け渡し、今は庭付きの一軒家に移り住んでいる。
今回天莉と尽が訪ねた、日本家屋然としたこぢんまりとした平屋は、家のすぐ前がバス停。
加えて徒歩数分圏内に総合病院などもあるといった結構好条件の立地で。
最初、町の中心部にあるマンションを弟夫婦に譲ると父母から聞かされたとき、今から年老いていく両親にこそ、元のマンションがふさわしいと思った天莉だったのだけれど――。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【完結】もう二度と離さない~元カレ御曹司は再会した彼女を溺愛したい
魚谷
恋愛
フリーライターをしている島原由季(しまばらゆき)は取材先の企業で、司馬彰(しばあきら)と再会を果たす。彰とは高校三年の時に付き合い、とある理由で別れていた。
久しぶりの再会に由季は胸の高鳴りを、そして彰は執着を見せ、二人は別れていた時間を取り戻すように少しずつ心と体を通わせていく…。
R18シーンには※をつけます
作家になろうでも連載しております
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる