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(11)タヌキとトリの悪だくみ
手駒はバカな方が使いやすい
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風見斗利彦が六階に降りて営業部のフロアに入ると、すぐさま横野博視が近付いてきた。
「風見課長、いつも紗英がお世話になっています」
「ああ」
今はお前に関わってる時間はないんだよ、と心の中で思いながらも、八方美人なところのある風見は笑顔で答える。
(こいつもバカな男だ。紗英なんかに騙されて)
風見から見れば博視が捨てた玉木天莉の方がよっぽどいい女だ。
仕事も出来るし、紗英のように飾り立てなくても見目麗しい。立ち居振る舞いも品があるし、言葉遣いも丁寧で完璧。
その証拠に――。
(あの女は紗英と違って、高嶺常務にも目を付けられてたぞ)
きっと眼前でのほほんと微笑む博視は、純朴そうに見えた玉木天莉から二股を掛けられていたことも知らないんだろう。
(おめでたいヤツ)
このまま博視と話していても、そんなに自分の利益にはなりそうにない。
「あ、あの……風見課長。それで天、た、玉木さんは最近……」
何やら別れた女のことを未練がましく知りたいみたいだが、今更そんなことを知って何になると言うのだろう。
(残念だが彼女はもうキミに手出しできるような相手じゃないんだよ)
口止めされていて言えないが、さっき自分は高嶺尽と玉木天莉の婚姻届の証人欄を埋めさせられたばかりなのだから。
博視にフラれて、天莉も残った有望株へターゲットを絞ったと言うことだろう。
(本当、江根見の娘にしても玉木にしても……女ってやつは強かで信用ならんよな)
――クソ真面目にしか見えなかった玉木天莉に限って言えば、そんなタイプじゃないと信じていたのに……。
裏切られた気持ちで一杯の風見だ。
それは、もしかするとぼんやりした自分の妻にも当てはまる気がして。
自身が、今まで散々あちこちで嫁以外の女性を食い散らしてきた風見斗利彦は、心の中でそんなことを思う。
だから自分も少々羽目を外してもお相子だろう?と言うのが、この浮気男が行きついた勝手な言い分だ。
(こいつ、自分が玉木天莉を出し抜いたつもりで、実際にはあっちに出し抜かれてただなんて思いもしないんだろうな。ホントおめでたい男だ)
自分はつい今し方も玉木天莉の所業を見て、所詮女なんてそんなものだという思いを強くしたばかりだが、横野博視は若い分、まだ経験値不足なんだろう。
(手駒としてはバカな方が使いやすくていいんだがな)
小間使いとしては、横野博視は割と小回りが利くし便利な男だから、表立って邪険には扱えないが、今は博視の相手をしている場合ではない。
「すまないが横野くん。私はこれから江根見部長に用があってね、ちょっと急いでるんだ。悪いが失礼するよ」
そう判断した風見は、博視の眼前で手刀を切るように片手をサッと上げると、適当に話を打ち切った。
「あ、申し訳ありません。お手間取らせました」
「……まあ今度ゆっくり呑みに行こう」
一応手下へのケアも忘れない。
こういう小手先なことにおいてのみ、風見斗利彦は狡猾で気の利く男だった。
「風見課長、いつも紗英がお世話になっています」
「ああ」
今はお前に関わってる時間はないんだよ、と心の中で思いながらも、八方美人なところのある風見は笑顔で答える。
(こいつもバカな男だ。紗英なんかに騙されて)
風見から見れば博視が捨てた玉木天莉の方がよっぽどいい女だ。
仕事も出来るし、紗英のように飾り立てなくても見目麗しい。立ち居振る舞いも品があるし、言葉遣いも丁寧で完璧。
その証拠に――。
(あの女は紗英と違って、高嶺常務にも目を付けられてたぞ)
きっと眼前でのほほんと微笑む博視は、純朴そうに見えた玉木天莉から二股を掛けられていたことも知らないんだろう。
(おめでたいヤツ)
このまま博視と話していても、そんなに自分の利益にはなりそうにない。
「あ、あの……風見課長。それで天、た、玉木さんは最近……」
何やら別れた女のことを未練がましく知りたいみたいだが、今更そんなことを知って何になると言うのだろう。
(残念だが彼女はもうキミに手出しできるような相手じゃないんだよ)
口止めされていて言えないが、さっき自分は高嶺尽と玉木天莉の婚姻届の証人欄を埋めさせられたばかりなのだから。
博視にフラれて、天莉も残った有望株へターゲットを絞ったと言うことだろう。
(本当、江根見の娘にしても玉木にしても……女ってやつは強かで信用ならんよな)
――クソ真面目にしか見えなかった玉木天莉に限って言えば、そんなタイプじゃないと信じていたのに……。
裏切られた気持ちで一杯の風見だ。
それは、もしかするとぼんやりした自分の妻にも当てはまる気がして。
自身が、今まで散々あちこちで嫁以外の女性を食い散らしてきた風見斗利彦は、心の中でそんなことを思う。
だから自分も少々羽目を外してもお相子だろう?と言うのが、この浮気男が行きついた勝手な言い分だ。
(こいつ、自分が玉木天莉を出し抜いたつもりで、実際にはあっちに出し抜かれてただなんて思いもしないんだろうな。ホントおめでたい男だ)
自分はつい今し方も玉木天莉の所業を見て、所詮女なんてそんなものだという思いを強くしたばかりだが、横野博視は若い分、まだ経験値不足なんだろう。
(手駒としてはバカな方が使いやすくていいんだがな)
小間使いとしては、横野博視は割と小回りが利くし便利な男だから、表立って邪険には扱えないが、今は博視の相手をしている場合ではない。
「すまないが横野くん。私はこれから江根見部長に用があってね、ちょっと急いでるんだ。悪いが失礼するよ」
そう判断した風見は、博視の眼前で手刀を切るように片手をサッと上げると、適当に話を打ち切った。
「あ、申し訳ありません。お手間取らせました」
「……まあ今度ゆっくり呑みに行こう」
一応手下へのケアも忘れない。
こういう小手先なことにおいてのみ、風見斗利彦は狡猾で気の利く男だった。
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