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(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?
傷付く姿は見たくない
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だが、そんなつい先日ついたばかりの傷口を抉りかねないエピソードを話して、天莉は無傷でいられるだろうか。
(……彼女が傷付く姿は見たくないな)
何度か強引に抱き上げた天莉の、少し力を加えれば折れてしまいそうに華奢な身体つきを思い出した尽は、我知らずそんなことを思ってしまった。
彼女を手中に収めてすぐの頃は天莉の弱みにつけ込んで、自分の計画に巻き込めればいいと手前勝手に思っていたはずだ。
なのに、今はどうだろう。
もちろん、玉木天莉という女性が、自分にとって都合の良い駒になってくれるであろう存在なことに変わりはない。
でも、執務室へ彼女を連れ込んですぐの頃みたく、天莉の意志を全て無視してぞんざいに扱えるかと聞かれたら、喉の奥に苦いものがこみ上げてくるのだ。
元々天莉の見た目は結構好みだったし、真面目で真っすぐな彼女の性格は、伴侶とするのに丁度いい素質だとも思っていた。
だからこそ自分は天莉をターゲットに定めたのだ。
そう。最初は確かにそれだけだったはずなのに――。
(俺は彼女に情でも芽生えてしまったんだろうか)
しばらく一緒にいて、間近で天莉のことを見れば見るほど……。
データ上だけでは見えてこなかった〝玉木天莉〟という女性の人となりに触れる機会が増えた。
一緒にいることで〝自分にとって都合の良い女〟と言うだけの価値しか持たなかった天莉が、それこそ直樹や璃杜のように、〝血の通った一人の人間〟に見えてきたから。
さっき期せずして本人に告げた、『天莉が思っている以上にキミのことを愛しく思っている』なんて言葉も、自分のなかの天莉への認識が変化した結果に思えた尽だ。
あれは、そう。
尽が普段自分に都合よく他者を動かすため使っているようなリップサービスなんかではなかったし、ましてや天莉を絡め取るために計略的に発した言葉ですらなかった。
天莉にちゃんと向き合いたい一心で、気が付いたら勝手に口を突いていたセリフ――。
それは、正直自分でも理解不能な言動だった。
自分との交際や結婚を不安がる天莉に、いつもの尽ならば自信満々。天莉の不安を押し込める形で『俺を信じろ』と言い切っていたはずなのだ。
だが、それが出来なかったのはきっと、天莉に告げた言葉そのままなわけで――。
(直樹じゃあるまいに……どうかしてるだろ、俺)
ふと幼少の頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染みの顔が浮かんで、ほとんど無意識。
自嘲気味にふっと吐息が漏れて、すぐそばの天莉に、「高嶺常務?」と不安そうに呼び掛けられてしまう。
その瞬間、うだうだ考えていたことが全て吹っ飛んで、ただ一点。
天莉の表情を曇らせた自分に焦った尽だ。
(……彼女が傷付く姿は見たくないな)
何度か強引に抱き上げた天莉の、少し力を加えれば折れてしまいそうに華奢な身体つきを思い出した尽は、我知らずそんなことを思ってしまった。
彼女を手中に収めてすぐの頃は天莉の弱みにつけ込んで、自分の計画に巻き込めればいいと手前勝手に思っていたはずだ。
なのに、今はどうだろう。
もちろん、玉木天莉という女性が、自分にとって都合の良い駒になってくれるであろう存在なことに変わりはない。
でも、執務室へ彼女を連れ込んですぐの頃みたく、天莉の意志を全て無視してぞんざいに扱えるかと聞かれたら、喉の奥に苦いものがこみ上げてくるのだ。
元々天莉の見た目は結構好みだったし、真面目で真っすぐな彼女の性格は、伴侶とするのに丁度いい素質だとも思っていた。
だからこそ自分は天莉をターゲットに定めたのだ。
そう。最初は確かにそれだけだったはずなのに――。
(俺は彼女に情でも芽生えてしまったんだろうか)
しばらく一緒にいて、間近で天莉のことを見れば見るほど……。
データ上だけでは見えてこなかった〝玉木天莉〟という女性の人となりに触れる機会が増えた。
一緒にいることで〝自分にとって都合の良い女〟と言うだけの価値しか持たなかった天莉が、それこそ直樹や璃杜のように、〝血の通った一人の人間〟に見えてきたから。
さっき期せずして本人に告げた、『天莉が思っている以上にキミのことを愛しく思っている』なんて言葉も、自分のなかの天莉への認識が変化した結果に思えた尽だ。
あれは、そう。
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自嘲気味にふっと吐息が漏れて、すぐそばの天莉に、「高嶺常務?」と不安そうに呼び掛けられてしまう。
その瞬間、うだうだ考えていたことが全て吹っ飛んで、ただ一点。
天莉の表情を曇らせた自分に焦った尽だ。
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