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(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

意識してしまう

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 キュウリ、ナス、ミニトマト、じゃがいも、ラディッシュ、小ネギ。

 ベランダにあったプランターを無頓着に愛車――黒のランドクルーザー――へ載せようとするじんを見て、手にウサギみたいな見た目の多肉植物〝モニラリア〟の鉢植えを持ったまま、天莉あまりは慌てふためいた。

 だって、プランターなのだ。
 裏側には土だってたくさん付いている。

「あ、あのっ。新聞紙とか持って来るのでちょっと待ってくださいっ」

 尽の愛車は五人乗り仕様。三列目シートがないタイプなので、後部の荷室が広かった。
 でも、だからと言って汚してもいい理由にはならないわけで。

 天莉が鉢植えを手にしたままソワソワするのを見て、尽がクスクス笑った。

「俺の車が汚れるのがそんなに心配?」

 問われて、コクコクとうなずいたら、
「そうか。俺は別に気にしないんだけど、このまま載せたらキミが倒れてしまいそうだし。お願いしようかな」

 ふわりと極上の笑み向けられて、天莉は落ち着かない気持ちになって。

 ブワッと耳が熱くなったのを感じた天莉は「あ、あのっ。じゃあ取ってきますねっ」と慌てて答えたのだけれど、動揺の余り声が上ずって余計に恥ずかしくなってしまう。

「行くならそれ、置いた方が良くないかね?」

 手にしたままのモニラリアの鉢植えを指さされて、天莉は慌てて肩を跳ねさせた。

 さっき部屋で、尽から博視ひろし以上に俺のことを好きになれと言われてから、どうも目の前の彼のことを意識してしまっていけない。

 元々高嶺たかみねじんという男は極上のハイスペック男性なのだ。

 地位的なものはもちろん、見た目もかなり最上級の部類に入るのだから、きっと天莉あまりじゃなくても意識したと思う。

 ましてや天莉は今、体調不良の際たまたま居合わせたに過ぎなかったはずの尽から、何故か強引すぎて怖いくらい熱烈に迫られまくっている。

 利害の一致がその理由だと尽は言うけれど、それだけで偶然ほんの少しそでが触れ合ったに過ぎない通りすがりの平凡なフラれ女に、あそこまで強引になれるだろうか?

(私なら好きでもない人にキスとか無理……)

 言わせたくないことがあって口を塞ぐにしたって、いきなり唇で塞ぐなんてあり得ない暴挙だ。

(キスっ)

 思い出しただけでぶわりと頬にしゅが昇りそうになって、天莉は小さくフルフルとかぶりを振って邪念を追い払った。

 そうしながら、気持ちを切り替えてモニラリアの鉢植えを野菜たちのプランター横に置こうとかがんのだけれど。

 ソワソワしながらしゃがみ込んだ天莉のすぐそばを、突如ニャーンという声とともに一匹の三毛猫が走り抜けたからたまらない。

「ひゃっ」

 どこからともなく現れた猫にびっくりして声を上げた天莉を無視して、その子は尽の足元へ一直線に駆け寄ると、愛し気に尽の足にスリスリィ~っと擦りついた。

(あ、あの子……)

 赤い首輪を付けたその三毛猫は、時折この辺りで見かけるどこかの飼い猫だった。

 天莉がいつも遠巻きに「可愛いな」と見ていた、いわゆる顔見知り?の子で。
 事故に遭ったりしたら怖いし、自分なら外には出さないのにな、と見かける度に心配もしていた猫だった。

 今まで天莉がどんなにその子のことを想って熱視線を送っても、こんな風に近付いてきてくれたことなんて一度もなかったのに。

(……何で?)
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