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(5)俺も今夜はお前ん家に
家族大好き男
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「お嬢さんのお名前、ふわりちゃんっておっしゃるんですか? すっごく可愛いですっ」
自分たちの雰囲気に気圧されて、ずっと押し黙っているだろうと思っていたのに。
尽が天莉に視線を向けたのもあったのだろうが、ホワンと頬を上気させて。突然二人の会話に割って入ってきた天莉に、直樹が一瞬だけ驚いて瞳を見開いたのが分かった。
(いや、だがこの流れ、絶対まずいだろ……)
尽がそう思ったと同時。
「玉木さん……」
尽を押し退けるようにして、直樹がソファに寝そべったままの天莉に一歩近づいた。
そうしてひざを折って天莉に視線を合わせると、「ふわりって名前は僕の妻が付けたんですけどね」と口火を切って。
「……起きられますか? 少しお身体に触れますね」
だのなんだの声を掛けながら、天莉をそっとソファの背もたれにもたれ掛けさせるようにして抱き起こすと、天莉が起き上がったことでずり落ちた尽の上着を彼女のひざにそっと掛け直した。
そうしておいて――。
尽には散々天莉に触れるなと釘を刺したくせに、やや興奮気味。
天莉の手首をそっと握ると、彼女の小さな手のひらの上に爪先を短く切りそろえた人差し指で、サラサラッと文字を書きながら説明を始めてしまう。
「表記はこんな風にひらがなで〝伊藤ふわり〟って書くんですけどね、見た目も響きもとっても柔らかい感じがして……妻に似て愛らしいうちの娘にホントぴったりだと思うんです」
とか何とか親バカを炸裂させるのだ。
「私、女の子のひらがなの名前、優しい感じがして大好きなんです。私もひらがなで〝あまり〟の方が良かったっていつも思ってるくらいなので」
「玉木さん、キミはなんて話の分かる女性なんだっ。――先程は緊急事態とは言え突き飛ばすような真似をして本当に申し訳ありませんでした。どこにもお怪我はないですか?」
ずっと天莉の前にひざを折ったままの直樹の視線が、明らかに今までとは違って和らいでいるのを見て尽はグッと奥歯を噛みしめた。
(この家族大好き男がっ)
毎度のことながら直樹は家族のことになると日頃の冷静さが嘘みたいに見境がなくなってしまう。
それが分かっていながら、つい直樹の気迫に押されて出遅れてしまったことを、この上なく悔しく思った尽だ。
「おい、直樹」
尽は苦々しい思いでそんな直樹の肩をグッと掴んだ。
自分たちの雰囲気に気圧されて、ずっと押し黙っているだろうと思っていたのに。
尽が天莉に視線を向けたのもあったのだろうが、ホワンと頬を上気させて。突然二人の会話に割って入ってきた天莉に、直樹が一瞬だけ驚いて瞳を見開いたのが分かった。
(いや、だがこの流れ、絶対まずいだろ……)
尽がそう思ったと同時。
「玉木さん……」
尽を押し退けるようにして、直樹がソファに寝そべったままの天莉に一歩近づいた。
そうしてひざを折って天莉に視線を合わせると、「ふわりって名前は僕の妻が付けたんですけどね」と口火を切って。
「……起きられますか? 少しお身体に触れますね」
だのなんだの声を掛けながら、天莉をそっとソファの背もたれにもたれ掛けさせるようにして抱き起こすと、天莉が起き上がったことでずり落ちた尽の上着を彼女のひざにそっと掛け直した。
そうしておいて――。
尽には散々天莉に触れるなと釘を刺したくせに、やや興奮気味。
天莉の手首をそっと握ると、彼女の小さな手のひらの上に爪先を短く切りそろえた人差し指で、サラサラッと文字を書きながら説明を始めてしまう。
「表記はこんな風にひらがなで〝伊藤ふわり〟って書くんですけどね、見た目も響きもとっても柔らかい感じがして……妻に似て愛らしいうちの娘にホントぴったりだと思うんです」
とか何とか親バカを炸裂させるのだ。
「私、女の子のひらがなの名前、優しい感じがして大好きなんです。私もひらがなで〝あまり〟の方が良かったっていつも思ってるくらいなので」
「玉木さん、キミはなんて話の分かる女性なんだっ。――先程は緊急事態とは言え突き飛ばすような真似をして本当に申し訳ありませんでした。どこにもお怪我はないですか?」
ずっと天莉の前にひざを折ったままの直樹の視線が、明らかに今までとは違って和らいでいるのを見て尽はグッと奥歯を噛みしめた。
(この家族大好き男がっ)
毎度のことながら直樹は家族のことになると日頃の冷静さが嘘みたいに見境がなくなってしまう。
それが分かっていながら、つい直樹の気迫に押されて出遅れてしまったことを、この上なく悔しく思った尽だ。
「おい、直樹」
尽は苦々しい思いでそんな直樹の肩をグッと掴んだ。
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