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(4)そう言うことでしたら今夜はとりあえず
損な役回り
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***
(くそっ! 何で僕がこんな損な役回りをしなきゃけないんだ!)
笑顔で天莉に話しかけてはいたけれど、その実、直樹は尽に対する怒りでどうにかなりそうだった。
そういう押し殺したはずの感情が、まさか天莉に恐怖心を与えているなんてことにまでは思い至れなかった直樹だが、そこはまぁ直樹自身怒りをぶちまけないでいることで一杯一杯だったのだから致し方あるまい。
(こんなことがなければ、僕はとうの昔に家で……今頃は――)
だって、そんな叶わない〝たられば〟を考えて、(それはさっき、僕のメッセを無視して尽が暴走気味だと分かった時点で諦めただろ?)と心の中で自分に言い聞かせる程度には、直樹だって心の葛藤を繰り広げていたのだから。
***
「大変不本意ではありますが、今回玉木さんがこんなことになってしまった原因は僕にも非があると認めたうえで、ひとつご提案です」
〝不本意〟のところに思いっきり感情を込めてそこまで言って。
直樹は勿体付けたように一呼吸置くと、わざとらしく尽をちらりと見遣った。
そうして、尽と天莉二人の視線が存分に自分へ引きつけられていることを確認すると、おもむろに言葉を続けてみせる。
「――そういうことでしたら、今夜はとりあえず僕の家にいらっしゃい」
「えっ……?」
「ちょっ、直樹! お前いきなり何を!」
案の定、直樹がまいた種に、天莉はキョトンとした反応をし、尽はこの上なく苛立たし気な様子も隠さず直樹に噛みついてきた。
「玉木さん、ハッキリ申し上げます。高嶺尽の家に行くよりは、僕の家にいらっしゃる方が数百倍安全です」
「で、でもっ」
とりあえず自分が連れて行かれそうな先が変わっただけという認識程度で、根本的な状況の変化が呑み込めずに目を白黒させている天莉のことは一旦保留しておこうと心に決めた直樹だ。
(ま、彼女の方は尽を説得するのに話す内容で、簡単に懐柔出来るでしょうし)
直樹はそんなことを思いながら天莉に背を向けると、
「けど直樹、そんなこと勝手に決めたら璃杜が黙ってないだろ!?」
などともっともらしい理由を並べ立てて抗議する幼なじみを静かに睨み付けた。
身長一八〇センチの尽に対して、直樹は一八二センチ。
実質、差なんてほとんどないが、ほんの少しだけ直樹の方が高い。
その小さな身長差を存分に生かし切れるほどではないと思うが、尽がそこに少なからず自分に対する引け目を感じているのは、高校生の頃に彼の身長を追い越した時にしかと心得ている直樹だ。
意図的に尽の頭の先から爪先までを、呆れたように睨めつけてから、直樹はわざと業務的に「御心配には及びませんよ、高嶺常務」と呼び掛けてから、スマートフォンをひらひらと尽の前で振って見せて。
「璃杜には今から電話するので問題ありません。貴方と違って僕らのもう一人の幼なじみはとても聞き分けがいいの、ご存知でしょう?」と付け加える。
「そもそも家に帰るのが遅くなるって分かった時点で一度連絡していますし、貴方が何かやらかしただろうことは璃杜にも分かっていると思いますから」
反論の余地を与えず一気にそこまでまくし立てると、直樹はピッとこれ見よがしに尽の前でリダイヤルボタンを押して、自宅に電話をかけて。
「もしもし、璃杜? 連絡がおそくなってごめんね」
尽に対するときとは真逆。天莉が思わず目を見開いてしまうほど優しい声音で語り掛けた。
(くそっ! 何で僕がこんな損な役回りをしなきゃけないんだ!)
笑顔で天莉に話しかけてはいたけれど、その実、直樹は尽に対する怒りでどうにかなりそうだった。
そういう押し殺したはずの感情が、まさか天莉に恐怖心を与えているなんてことにまでは思い至れなかった直樹だが、そこはまぁ直樹自身怒りをぶちまけないでいることで一杯一杯だったのだから致し方あるまい。
(こんなことがなければ、僕はとうの昔に家で……今頃は――)
だって、そんな叶わない〝たられば〟を考えて、(それはさっき、僕のメッセを無視して尽が暴走気味だと分かった時点で諦めただろ?)と心の中で自分に言い聞かせる程度には、直樹だって心の葛藤を繰り広げていたのだから。
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「大変不本意ではありますが、今回玉木さんがこんなことになってしまった原因は僕にも非があると認めたうえで、ひとつご提案です」
〝不本意〟のところに思いっきり感情を込めてそこまで言って。
直樹は勿体付けたように一呼吸置くと、わざとらしく尽をちらりと見遣った。
そうして、尽と天莉二人の視線が存分に自分へ引きつけられていることを確認すると、おもむろに言葉を続けてみせる。
「――そういうことでしたら、今夜はとりあえず僕の家にいらっしゃい」
「えっ……?」
「ちょっ、直樹! お前いきなり何を!」
案の定、直樹がまいた種に、天莉はキョトンとした反応をし、尽はこの上なく苛立たし気な様子も隠さず直樹に噛みついてきた。
「玉木さん、ハッキリ申し上げます。高嶺尽の家に行くよりは、僕の家にいらっしゃる方が数百倍安全です」
「で、でもっ」
とりあえず自分が連れて行かれそうな先が変わっただけという認識程度で、根本的な状況の変化が呑み込めずに目を白黒させている天莉のことは一旦保留しておこうと心に決めた直樹だ。
(ま、彼女の方は尽を説得するのに話す内容で、簡単に懐柔出来るでしょうし)
直樹はそんなことを思いながら天莉に背を向けると、
「けど直樹、そんなこと勝手に決めたら璃杜が黙ってないだろ!?」
などともっともらしい理由を並べ立てて抗議する幼なじみを静かに睨み付けた。
身長一八〇センチの尽に対して、直樹は一八二センチ。
実質、差なんてほとんどないが、ほんの少しだけ直樹の方が高い。
その小さな身長差を存分に生かし切れるほどではないと思うが、尽がそこに少なからず自分に対する引け目を感じているのは、高校生の頃に彼の身長を追い越した時にしかと心得ている直樹だ。
意図的に尽の頭の先から爪先までを、呆れたように睨めつけてから、直樹はわざと業務的に「御心配には及びませんよ、高嶺常務」と呼び掛けてから、スマートフォンをひらひらと尽の前で振って見せて。
「璃杜には今から電話するので問題ありません。貴方と違って僕らのもう一人の幼なじみはとても聞き分けがいいの、ご存知でしょう?」と付け加える。
「そもそも家に帰るのが遅くなるって分かった時点で一度連絡していますし、貴方が何かやらかしただろうことは璃杜にも分かっていると思いますから」
反論の余地を与えず一気にそこまでまくし立てると、直樹はピッとこれ見よがしに尽の前でリダイヤルボタンを押して、自宅に電話をかけて。
「もしもし、璃杜? 連絡がおそくなってごめんね」
尽に対するときとは真逆。天莉が思わず目を見開いてしまうほど優しい声音で語り掛けた。
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