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(4)そう言うことでしたら今夜はとりあえず

さっきの約束はまだ有効だよ?

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***

「……申し訳ありませんっ!」

 突然じんの背後から、今までだんまりを貫いていた天莉あまりが口を開いたから。

 一瞬室内がシーン……と静まり返って――。

 そのことが余計に天莉を落ち着かなくさせた。


「あ、あのっ……。高嶺たかみね常務は本当にちっとも悪くないんですっ。も、元はと言えば私が……」

 それでもポツポツと事の次第しだいを話し始めた天莉に、直樹なおきはもちろんのこと、当事者であるはずの尽も口を挟まずにいてくれて。

 そのことがとても有難く思えた天莉だ。

 仕事の出来る人間と言うのは、言うべき時はハッキリと発言し、聞くべき時は相手の言葉に耳を傾けられるものなのかも知れない。

 一生懸命話しながら天莉はそんなことをふと考えてしまった。


 全て話し終えたあと、もう一度「申し訳ありませんでした! ……私、本当にもう大丈夫ですし、すぐにおいとましますので」と勢いよく頭を下げたのだけれど。

 それがいけなかった。

 回復しきっていなかった身体は、的確に眩暈めまいを訴えてきて、天莉はいとも簡単にぐらりとバランスを崩してしまう。

「ひゃっ」

 思わず悲鳴を上げた天莉を、尽が当然と言った様子で再度支えてくれて。

「ほらな、直樹なお。さっきのもこう言うことだ」

 どこか勝ち誇ったように、高らかに宣言した。


***


「やっぱりまだ本調子じゃないんだよ。横になってなきゃ駄目だ」

 結局じんによって再度ソファに横たえられた天莉あまりは、当然のように彼が脱いだジャケットを着せかけられて。

 尽が天莉を見下ろしたまま、すぐそばで上着を脱いだ瞬間、ふわりとシトラス系の清潔感溢れるシャボンのような香りが鼻腔をくすぐった。

「あ、あのっ」

「いいから。少し黙りなさい。さっきの約束は俺の中ではまだ有効だよ?」

 尽のすぐ背後には直樹がいるというのに。
 唇を塞いで黙らせることも辞さないよ?と言わんばかりの嫣然えんぜんとした笑みを向けられて、天莉は慌てて口を閉ざした。

 先程〝結婚〟などという文言もんごんで尽から縛られてしまったからだろうか。

 眼鏡の奥から天莉を見下ろす尽の表情が限りなく甘やかに見えて……天莉は妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。
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