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17.修太郎さん、私、一緒に行って頂きたい場所があるのです
今日は何と大安なのですっ!
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「えっ、あ、あのっ……、日織さん、それはどういう……?」
(これって日織さん、僕に眼鏡買ってくださろうとなさってますよね?)
ここまでハッキリ〝お金のことは気にするな〟と言い切られてしまっては、看過できないと思ってしまった修太郎だ。
そもそも修太郎の誕生日は十月七日で、今日は五月八日(日曜日)。
全くもって何でもない日なわけで。
寧ろ、六月二四日の日織の誕生日の方が近いくらいだ。
先のホワイトデーには、修太郎は日織のイメージだと勝手に思っている、フレッシュピーチの香り漂うヘアオイルと、髪の毛に優しい櫛のセットをお返しした。
プレゼントして以来、日織はそれをお泊まりの度に持って来て使ってくれるから、修太郎はとても嬉しかったりするのだ。
そう。
自分にはそれだけでも十分なプレゼントなのに。
日織に何かを買ってもらうなんて有り得ないじゃないか。
何もない日にプレゼントを渡そうとすると、恐縮して受け取ってくれない日織だから、修太郎だって先の酒蔵祭りで買った地酒たちは、日織の誕生日プレゼントにしようと隠しているのに。
「どうもこうもないのですっ。眼鏡、私から修太郎さんへプレゼントしたいと思っているのですっ!」
修太郎だってのべつ幕なし日織にプレゼント攻撃したいのを我慢しているというのに。
何で彼女はこんなに呆気らかんと、そんなことが言えてしまえるんだろう?
「いや、今日は何でもない日ですよ?」
(僕の気も知らないで……)
そう思ったらちょっぴり悔しくなってしまった修太郎だ。
自然声が低まって、どこか日織のことを咎めるような口調になってしまった。
「――ほら、アリスの中でマッドハッターと三月うさぎも言ってるじゃないですか。『何でもない日ばんざーい』って!」
なのに日織はクスクス笑うと『不思議の国のアリス』の一説を持ち出して、おどけてみせる。
実際には『誕生日じゃない日』を祝うシーンだが、そんなこと今はどうでもいい。
「日織」
小さく吐息を落としながら、自分の言葉をはぐらかそうとする日織をたしなめようとしたら、
「もう! まだうだうだとゴネるおつもりですか?」
日織が愛らしい唇をムッと突き出して修太郎を下から怖い顔をして見上げてきた。
それだけで、すぐにタジタジになってしまう修太郎だ。
「いや、でも……」
思わず一歩後退りそうになったのを何とか堪えて言い訳しようとした修太郎に、「今月の五日は私のお給料日でした」と日織が言って。
「え?」
何の脈絡もなくいきなりそんなことを言われた修太郎は、思わず間の抜けた声を出してしまう。
「ですが、ご存知の通りその日はゴールデンウィークの真っ只中なのです。なのでっ」
今年の五月は日曜日から始まった。その関係で、前倒しになった日織の給料日は二日の月曜日だったらしい。
「実はお給料が振り込まれた日は大安だったのですっ。本当はその日に即日修太郎さんをお買い物に連れ出したかったのですが……」
妻が告げる言葉の意味が分からなくてキョトンとする修太郎を置き去りにして、日織はお構いなしに言葉を重ねる。
「その日は平日だったので諦めました」
「……はい」
分からないままに、日織の迫力に押されて思わず返事してしまった修太郎だ。
日織はそんな修太郎をじっと見上げながら言葉を続ける。
「今日はゴールデンウィーク明けの日曜日です。そうして何と……大安なのですっ! だから今日、私は修太郎さんに眼鏡をプレゼントすることにしたのです!」
(これって日織さん、僕に眼鏡買ってくださろうとなさってますよね?)
ここまでハッキリ〝お金のことは気にするな〟と言い切られてしまっては、看過できないと思ってしまった修太郎だ。
そもそも修太郎の誕生日は十月七日で、今日は五月八日(日曜日)。
全くもって何でもない日なわけで。
寧ろ、六月二四日の日織の誕生日の方が近いくらいだ。
先のホワイトデーには、修太郎は日織のイメージだと勝手に思っている、フレッシュピーチの香り漂うヘアオイルと、髪の毛に優しい櫛のセットをお返しした。
プレゼントして以来、日織はそれをお泊まりの度に持って来て使ってくれるから、修太郎はとても嬉しかったりするのだ。
そう。
自分にはそれだけでも十分なプレゼントなのに。
日織に何かを買ってもらうなんて有り得ないじゃないか。
何もない日にプレゼントを渡そうとすると、恐縮して受け取ってくれない日織だから、修太郎だって先の酒蔵祭りで買った地酒たちは、日織の誕生日プレゼントにしようと隠しているのに。
「どうもこうもないのですっ。眼鏡、私から修太郎さんへプレゼントしたいと思っているのですっ!」
修太郎だってのべつ幕なし日織にプレゼント攻撃したいのを我慢しているというのに。
何で彼女はこんなに呆気らかんと、そんなことが言えてしまえるんだろう?
「いや、今日は何でもない日ですよ?」
(僕の気も知らないで……)
そう思ったらちょっぴり悔しくなってしまった修太郎だ。
自然声が低まって、どこか日織のことを咎めるような口調になってしまった。
「――ほら、アリスの中でマッドハッターと三月うさぎも言ってるじゃないですか。『何でもない日ばんざーい』って!」
なのに日織はクスクス笑うと『不思議の国のアリス』の一説を持ち出して、おどけてみせる。
実際には『誕生日じゃない日』を祝うシーンだが、そんなこと今はどうでもいい。
「日織」
小さく吐息を落としながら、自分の言葉をはぐらかそうとする日織をたしなめようとしたら、
「もう! まだうだうだとゴネるおつもりですか?」
日織が愛らしい唇をムッと突き出して修太郎を下から怖い顔をして見上げてきた。
それだけで、すぐにタジタジになってしまう修太郎だ。
「いや、でも……」
思わず一歩後退りそうになったのを何とか堪えて言い訳しようとした修太郎に、「今月の五日は私のお給料日でした」と日織が言って。
「え?」
何の脈絡もなくいきなりそんなことを言われた修太郎は、思わず間の抜けた声を出してしまう。
「ですが、ご存知の通りその日はゴールデンウィークの真っ只中なのです。なのでっ」
今年の五月は日曜日から始まった。その関係で、前倒しになった日織の給料日は二日の月曜日だったらしい。
「実はお給料が振り込まれた日は大安だったのですっ。本当はその日に即日修太郎さんをお買い物に連れ出したかったのですが……」
妻が告げる言葉の意味が分からなくてキョトンとする修太郎を置き去りにして、日織はお構いなしに言葉を重ねる。
「その日は平日だったので諦めました」
「……はい」
分からないままに、日織の迫力に押されて思わず返事してしまった修太郎だ。
日織はそんな修太郎をじっと見上げながら言葉を続ける。
「今日はゴールデンウィーク明けの日曜日です。そうして何と……大安なのですっ! だから今日、私は修太郎さんに眼鏡をプレゼントすることにしたのです!」
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