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15.甘やかしと言う名のお仕置き*

二人の夜は始まったばかりなのだから

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 そんなこんなで、ちょっとした刺激で思わず熱い吐息が漏れてしまう始末。


 その度に日織ひおりが嬉しそうに自分を見上げてくるから堪らない。


 本来〝口でする〟と言うのはそういうことではないのですよ?と教えて差し上げたいのに出来ないではないか。


(もぉー、日織さんっ! 可愛すぎて反則です!)



 しかも――。

「あっ、……ひ、おりっ! ……お願っ、離れてっ」


 でないともう……。

 ティーンの、寝ても覚めてもピンクな世界真っ盛りの童貞じゃあるまいに。

 その愛らしい口に咥えられてもいないくせに(ヤバイ、く!)と思った修太郎しゅうたろうは、慌てて日織の顔から下半身を引き剥がすようにして身を引いた。


 それで、何とか日織の顔に吐精してしまうことだけは避けられたのだけれども――。



「あのっ、修太郎しゅうたろぉさん。――わ、私っ、……その、うまく出来ましたでしょうか?」

 褒めて?と言わんばかりの期待に満ちた目で見つめられては「日織さん、口淫はもっと口全体を使うんです」とか言えるわけがないではないか。


 手のひらを汚す自分の体液を見て、修太郎は『甘やかしと言う名のお仕置き』をされたのは、他でもない。
 日織ではなく自分の方だったではないか、と小さく吐息を落とした。


***


「それで……修太郎しゅうたろうさんっ? 私からの愛の深さは分かって頂けましたか?」


 ティッシュペーパーに手を伸ばした修太郎を、日織ひおりが大きな目でウルルンと見上げてくる。

 その色素の薄い二重まぶたの綺麗な目は、誇りと自信と期待に満ち溢れていたから。

 修太郎は手に残る青臭い残滓ざんしを拭いながら「はい、とても」と答えるしかなくて。

 なのに修太郎の言葉を聞いた途端、日織は愛らしい唇をほんのちょっと突き出して、「でしたら……」と何だかとっても不満そうになったのだ。

「日織さん?」

 その変化に気付かない修太郎ではない。

 おや?と思いながら声を掛ければ、「でしたら……どうしてしてこんなことに? 私、憧れていましたのに」と続ける微かな声。

「憧れ?」

 どんなに小さな声だって、日織の声は聞き逃さない修太郎だ。

 まさか独りごちた言葉を拾われるとは思っていなかったのか、修太郎の問いかけに瞳を見開いた日織に、修太郎は重ねて問いかける。

、憧れていらしたんですか?」

 愛する妻の不満をそのままにすることなど、の修太郎にできるはずがない。

 殊更ことさら「何に」のところに力を込めて日織の肩を掴んでその顔をじっと見下ろせば、日織が堪らないみたいにソワソワと視線を泳がせて。

 ややして、逃げられないと観念したようにゴニョゴニョと白状した。

「……お、お顔に……出、して……頂く、ことに、……です」

 真っ赤になって修太郎しゅうたろうから視線を逸らせるブラウンアイに、修太郎は「え?」と間の抜けた声を出さずにはいられなくて――。


「どっ、……どうして、手に出してしまわれたのですか?」

 そんな夫の様子に、日織ひおりは逆に活気付いたらしい。真っ直ぐに修太郎を見上げて言い募ってきた。


「修太郎さんは意地悪なのですっ。いつもは私のこと、〝僕の日織さん〟って言ってくださるのに……あんな態度……」

 男の人はそういうのに憧れがあるとお聞きしたことがあるのにしてもらえなかった自分は、それほど修太郎に執着されていないのではないかと思ったのだと。

 そんなニュアンスの言葉をつらつらと言い立てて日織がぷぅっと頬を膨らませる。

 まさか良かれと思ってしたことが、日織にこんなにも不満を抱かせることになるだなんて思いもよらなかった修太郎だ。


 ほぅっと小さく吐息を落とすと、

「でしたら日織さん。今の行為自体、最初から仕切り直しませんか? 僕の言う通りにもう一度その可愛いお口でご奉仕して下さったら、僕も日織さんの望みを叶えて差し上げましょう」

 そう、提案した。

 今度こそ、〝口でする〟ということの本当の意味を、ちゃんと日織さんにお教えしよう、と思ったのは言うまでもない。


 二人の夜は始まったばかりなのだから――。
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