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15.甘やかしと言う名のお仕置き*
日織ちゃんって呼ばれていますけど…ダメですか?
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***
「洋装も良かったですが、やっぱり修太郎さんの和装は格別に素敵だったのですっ!」
スマートフォンの画像フォルダを開いて画面をスワイプさせながら、日織がうっとりとつぶやく。
今日は写真の前撮りの打ち合わせも兼ねていたので、ふたりで軽く衣装合わせをした日織と修太郎だ。
そのときの様子を撮った写真を見ているらしい。
実際には和装の試着はドレスとは違い、今着ている服の上から羽織る程度だったのだけれど、日織は実家から持たされた白無垢のほかに、レンタルで色内掛けも着ることになっていたので、何着か気になるものを羽織らせさせてもらった。
修太郎の方は神崎天馬から持たされた黒五つ紋付羽織を着ることになっていたけれど、一応それも前撮りまでに持ってきて欲しいと式場から言われて、日織の白無垢と一緒に持参していて。
自前のものなので事前に合わせていたし、着てみる必要は微塵もなかったのだが、日織がどうしても見たいとごねた結果、服の上からスタッフさんが袴を履かせてくれて、それに羽織をバサッと羽織って何となくの雰囲気を見せた修太郎だ。
だが、日織はそれだけでもかなり感激したらしい。
「一斗さんも和装が良くお似合いですが、やっぱり私は修太郎さんのお姿にときめくのですっ」
どこかホッとしたように日織がつぶやいて、修太郎はその言葉にピクッと反応する。
「――そういえば夕方お迎えに上がったときから気になっていたのですが……」
何だかんだあって問い詰めるのが遅くなってしまっていた。
「日織さんはあの和装の男性のことを下の名前でお呼びになっていらっしゃるのですか?」
日織をおびえさせてしまってはちゃんとした話は聞けないから、なるべく穏やかに聞こえるように言葉をつむいだつもりだけど、うまく行ったかどうかは自分でも良く分からない。
「一斗さんのこと……ですか? はい、十升と区別するためにずっと……彼のお兄さんのことはお名前で呼ばせて頂いています。――子供のころからそうなので」
日織が「それが何か?」と言いたげなキョトンとした顔で自分を見上げてきて。修太郎は思わず溜め息を落としたくなるのを必死でこらえた。
百歩譲って日織があの〝和装眼鏡男〟のことを下の名で呼ぶのは許すとしよう。だが、問題は――。
「まさかとは思いますが一斗さんとやらも貴女のことを――」
ソファに腰掛けたままの日織の前にスッとひざまずくと、修太郎は目線を日織のそれと合わせるようにして問いかけた。
日織は一瞬だけそんな修太郎の様子に息を呑んでから「えっと……ひ、〝日織ちゃん〟って呼ばれていますけど……ダメですか?」と眉根を寄せる。
修太郎は間髪入れずに「駄目に決まっているでしょう!」と吐き捨てて、日織の肩をつかんでしまっていた。
「洋装も良かったですが、やっぱり修太郎さんの和装は格別に素敵だったのですっ!」
スマートフォンの画像フォルダを開いて画面をスワイプさせながら、日織がうっとりとつぶやく。
今日は写真の前撮りの打ち合わせも兼ねていたので、ふたりで軽く衣装合わせをした日織と修太郎だ。
そのときの様子を撮った写真を見ているらしい。
実際には和装の試着はドレスとは違い、今着ている服の上から羽織る程度だったのだけれど、日織は実家から持たされた白無垢のほかに、レンタルで色内掛けも着ることになっていたので、何着か気になるものを羽織らせさせてもらった。
修太郎の方は神崎天馬から持たされた黒五つ紋付羽織を着ることになっていたけれど、一応それも前撮りまでに持ってきて欲しいと式場から言われて、日織の白無垢と一緒に持参していて。
自前のものなので事前に合わせていたし、着てみる必要は微塵もなかったのだが、日織がどうしても見たいとごねた結果、服の上からスタッフさんが袴を履かせてくれて、それに羽織をバサッと羽織って何となくの雰囲気を見せた修太郎だ。
だが、日織はそれだけでもかなり感激したらしい。
「一斗さんも和装が良くお似合いですが、やっぱり私は修太郎さんのお姿にときめくのですっ」
どこかホッとしたように日織がつぶやいて、修太郎はその言葉にピクッと反応する。
「――そういえば夕方お迎えに上がったときから気になっていたのですが……」
何だかんだあって問い詰めるのが遅くなってしまっていた。
「日織さんはあの和装の男性のことを下の名前でお呼びになっていらっしゃるのですか?」
日織をおびえさせてしまってはちゃんとした話は聞けないから、なるべく穏やかに聞こえるように言葉をつむいだつもりだけど、うまく行ったかどうかは自分でも良く分からない。
「一斗さんのこと……ですか? はい、十升と区別するためにずっと……彼のお兄さんのことはお名前で呼ばせて頂いています。――子供のころからそうなので」
日織が「それが何か?」と言いたげなキョトンとした顔で自分を見上げてきて。修太郎は思わず溜め息を落としたくなるのを必死でこらえた。
百歩譲って日織があの〝和装眼鏡男〟のことを下の名で呼ぶのは許すとしよう。だが、問題は――。
「まさかとは思いますが一斗さんとやらも貴女のことを――」
ソファに腰掛けたままの日織の前にスッとひざまずくと、修太郎は目線を日織のそれと合わせるようにして問いかけた。
日織は一瞬だけそんな修太郎の様子に息を呑んでから「えっと……ひ、〝日織ちゃん〟って呼ばれていますけど……ダメですか?」と眉根を寄せる。
修太郎は間髪入れずに「駄目に決まっているでしょう!」と吐き捨てて、日織の肩をつかんでしまっていた。
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