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9.佳穂とカフェで
僕には彼女を縛る権利はないんだから
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自分の勤めている課――都市計画課――とは無縁の行事だったから失念していたが、観光課の主催でそんな催し物をやるとお触れが回ってきていたのを、日織の話を聞くうちに思い出した修太郎だ。
思い出した途端、己も身を置く市役所の連中の仕業だったかと憎々しく思ったのは言うまでもない。
ましてや絡みのない課が取り仕切るというのがまた気に入らなかった。
自分の預かり知ったところでの行事なら、少しは売り子をする日織に干渉しやすいのに、と思った。
「何もこのクソ寒い時期にやらなくてもいいと思うんだけどね――」
せめてもの抵抗みたいに付け加えたら、憎々しさに自分でも眉間に皺が寄ったのが分かった。
だけど、本音では日織をそこへ行かせたくないのだから仕方がない。
「わぁー。めちゃくちゃ不満そうな顔ね」
修太郎の表情に目ざとく気付いた佳穂が、「そんなトコに縦皺寄せてたら取れなくなっちゃうわよ?」と言いながらカップ越しに修太郎を見遣る。
「僕だってこんな顔、したくてしてるわけじゃない。ただ――」
日織がどうしても行きたいと言うから仕方なく許可しているに過ぎないのだと言外に含めれば、佳穂がはぁ~っと大きく溜め息を落とした。
「で、結局認めちゃったって言うの? 日織ちゃんがどうしても行きたいって言ったから?」
ここで冒頭の所に至ったわけだ。
佳穂があからさまに大きく溜め息をつきながら、
「ホント修太郎って何だかんだ言って日織ちゃんに頭上がらないし、甘々よね」
と、今更分かりきったことを突きつけてくる。
「それは……仕方ないだろう。僕には彼女を縛る権利はないんだから」
罰が悪そうにそう言った修太郎を見て、佳穂が「わ~、意外」ってつぶやいて、椅子の背もたれから離れると、前のめりになった。
「ね、修太郎。本当にそう思ってる?」
探るように見つめられて、修太郎は思わず視線を逸らしたくなる。
だけどここでそんなことをしたら「そう思っていない」と言っているのと同義な気がして。
修太郎は佳穂の視線を真っ向から、一ミリも目を逸らさずに見つめ返した。
「本音を言うと閉じ込めておきたいさ。けど、そんなことをしたら、僕は日織さんのそばにいる資格を失ってしまう」
日織のことを閉じ込めて、完全に彼女の行動を掌握したいという思いは、常に修太郎の心の中に燻っている。
だけどそんなことをしたら、修太郎の愛する日織が日織らしくいられなくなるだろうことも理解しているし、何より日織という女性が、そんな枠に嵌め込めるような生やさしい娘ではないことも知っているつもりだ。
修太郎は、一見ほやぁ~んとした日織の、そういう芯の強さに惹かれているのだ。それを手折ることなんて、例え自分自身であっても許されない。
「そう。それを聞いて少し安心したわ」
クスッと笑って椅子にもたれ直した佳穂に、修太郎は彼女のそう言う何もかも見透かしてしまうところが苦手なんだと苦笑した。
「以前の貴方なら日織ちゃんを閉じ込めかねない危うさがあって心配してたのよ」
カップを傾けながら窺うような視線を向けられて、修太郎は思わず佳穂を見つめた。
思い出した途端、己も身を置く市役所の連中の仕業だったかと憎々しく思ったのは言うまでもない。
ましてや絡みのない課が取り仕切るというのがまた気に入らなかった。
自分の預かり知ったところでの行事なら、少しは売り子をする日織に干渉しやすいのに、と思った。
「何もこのクソ寒い時期にやらなくてもいいと思うんだけどね――」
せめてもの抵抗みたいに付け加えたら、憎々しさに自分でも眉間に皺が寄ったのが分かった。
だけど、本音では日織をそこへ行かせたくないのだから仕方がない。
「わぁー。めちゃくちゃ不満そうな顔ね」
修太郎の表情に目ざとく気付いた佳穂が、「そんなトコに縦皺寄せてたら取れなくなっちゃうわよ?」と言いながらカップ越しに修太郎を見遣る。
「僕だってこんな顔、したくてしてるわけじゃない。ただ――」
日織がどうしても行きたいと言うから仕方なく許可しているに過ぎないのだと言外に含めれば、佳穂がはぁ~っと大きく溜め息を落とした。
「で、結局認めちゃったって言うの? 日織ちゃんがどうしても行きたいって言ったから?」
ここで冒頭の所に至ったわけだ。
佳穂があからさまに大きく溜め息をつきながら、
「ホント修太郎って何だかんだ言って日織ちゃんに頭上がらないし、甘々よね」
と、今更分かりきったことを突きつけてくる。
「それは……仕方ないだろう。僕には彼女を縛る権利はないんだから」
罰が悪そうにそう言った修太郎を見て、佳穂が「わ~、意外」ってつぶやいて、椅子の背もたれから離れると、前のめりになった。
「ね、修太郎。本当にそう思ってる?」
探るように見つめられて、修太郎は思わず視線を逸らしたくなる。
だけどここでそんなことをしたら「そう思っていない」と言っているのと同義な気がして。
修太郎は佳穂の視線を真っ向から、一ミリも目を逸らさずに見つめ返した。
「本音を言うと閉じ込めておきたいさ。けど、そんなことをしたら、僕は日織さんのそばにいる資格を失ってしまう」
日織のことを閉じ込めて、完全に彼女の行動を掌握したいという思いは、常に修太郎の心の中に燻っている。
だけどそんなことをしたら、修太郎の愛する日織が日織らしくいられなくなるだろうことも理解しているし、何より日織という女性が、そんな枠に嵌め込めるような生やさしい娘ではないことも知っているつもりだ。
修太郎は、一見ほやぁ~んとした日織の、そういう芯の強さに惹かれているのだ。それを手折ることなんて、例え自分自身であっても許されない。
「そう。それを聞いて少し安心したわ」
クスッと笑って椅子にもたれ直した佳穂に、修太郎は彼女のそう言う何もかも見透かしてしまうところが苦手なんだと苦笑した。
「以前の貴方なら日織ちゃんを閉じ込めかねない危うさがあって心配してたのよ」
カップを傾けながら窺うような視線を向けられて、修太郎は思わず佳穂を見つめた。
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