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5.尋問の夜*

そんなことで僕が怒っていると?

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***

「ひとつだけ日織ひおりさんを安心させて差し上げましょう」

 最上階の一室に入るなり、修太郎しゅうたろうが日織を部屋の中に半ば強引に引き入れて、そう言った。

「あん、しん?」

 この状況でそう言われても説得力がない。
 そう感じた日織が、恐る恐る修太郎の言葉を繰り返せば、修太郎が自分の携帯を日織の方へ向けてきた。


「部屋を取る前に、日織さんのご両親にはちゃんと許可を取り付け済みです」


 夫婦が一緒に過ごすことに誰の許可が要るというのか?と言ったのと同じ口で、修太郎はその辺りのことはちゃんと済ませてあるのだと言う。

 どこか矛盾しているようにも感じられる言動だけど、日織がまだ実家住まいなことを思えば、それは一緒に暮らす家族への当然の配慮だと言えた。

「修太郎……さん……。有難う、ござい、ます」

 このまま帰らなくても、両親の気を揉ませることはないのだと知って、日織はホッと胸を撫で下ろして。

 だけど修太郎の冷ややかな表情を見ると、家に帰れないことを手放しに喜ぶことも出来ない気がした。

「あ、あのっ、私……」

 日織ひおりは、修太郎しゅうたろうに対してやましいことなんて何ひとつないはずなのだ。

 確かに、同窓会の間中ずっと羽住はすみと一緒にいたことは確かだけれど、どこかの個室でふたりきりでいたとか、そういうわけでもなかった。

 ただ、広い会場の中、?隣に座って料理を食べながらお話をしただけ……。

 そう。
 日織は修太郎からの言いつけを守って、お酒の一滴だって飲んでやしないのだ。


「私っ、修太郎さんのお言葉を守って、お酒を飲んだりはしていないのですっ」

 日本酒だって、頼めばあったかもしれないけれど、あえて自分から求めようとはしなかった。

「私、烏龍茶ウーロンちゃしか……」

 言えば、「そんなことで僕が怒っていると?」と静かに問いかけられた。

 投げかけられた修太郎の視線の冷たさに、日織はギュッと身体を縮こめる。

 日本酒以外のお酒を飲むことは禁じられていたけれど、飲んでいるかいないかは日織の様子を見れば一目瞭然だ。

 それに、お酒云々は羽住はすみとは直接絡んでいないではないか。

 羽住はすみが酒蔵の息子ということで、我知らずつい関連性を持たせて考えてしまっていた日織だったけれど、よく考えてみれば修太郎はそのことを知らないはずで。

 「お酒=羽住はすみ」の構図自体成り立つはずがなかった。
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