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5.尋問の夜*

残酷な人?

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「……羽住はすみくんのこと、ですか?」

 多分羽住はすみ絡みだ。


 では羽住はすみとの何がいけなかったのか?と問われたらスパッと答えられない日織だったけれど、それくらいしか思いつけないのもまた事実で。


(もしかしたら……お電話で羽住はすみくんが失礼な物言いをなさったのがいけなかったの?)


 あれこれ思いながら恐る恐る羽住はすみの名を出せば、掴まれた手にわずか力が込められる。

 どうやら正解みたいだ。


 でも――〝羽住はすみとの何が?〟が、日織には分からない。


「あのっ、……」

 日織が未だハッキリと自覚できない答えを探して口を開こうとしたら、それをさえぎるように修太郎が言った。



「――今夜は、ここに泊まれるよう部屋を取ってあります」

「えっ?」

 土曜日とは言え、今日は修太郎のところへ泊まる算段にはなっていなかったはずだ。

 当然泊まりの準備などもしていない。

 そう言い募ろうとしたら、まるで有無を言わせない、と言われているみたいな淡々とした調子で続けられた。


日織ひおりさんにはそこで、僕からの質問に、ひとつずつ・丁寧に・じっくりと、答えて頂きます」

 強調すべきところをわざとゆっくり言う修太郎に、

「……でも修太郎しゅうたろうさんっ。私、今日はお父様に……」

 ――お泊まりの許可を頂いていないのですっ。

 日織がそう続けようとしたら、

「キミは僕の妻だ。夫が妻と一夜を共にするのに、どうして第三者の許可がいるのですか?」

 いつもはちゃんと義父を立てるはずの修太郎の言葉とは思えない冷ややかな宣言に、日織は思わず怖くなって息を詰める。

「でもっ、家に連絡をしなければ……両親に心配をおかけしてしまいますっ」

 こちらを見ようとしてくれない修太郎に、日織は泣きそうになりながら訴えた。

「ご両親への配慮はお出来になるのに、夫への気遣いは出来ないとか……。日織さんは本当に残酷な方だ」

 修太郎の言葉に、日織は心臓をギュッと鷲掴わしづかみにされたみたいな痛みを感じた。
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