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4.君が羽住十升くんですか?

這う這うのてい

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「あ、あのっ、修太郎しゅうたろうさんっ。そのっ、羽住はすみくんにはきっとそんなに悪気はなかったのですっ。だから――」

 羽住はすみと修太郎との間の不穏ふおんな空気に心配そうに眉根を寄せながら。

 日織ひおりが彼女と羽住はすみとの間に立ちはだかる修太郎の腕にそっと触れて。

 日織が、修太郎の手をちょんちょん、と引っぱったことで、修太郎の視線が一瞬だけ日織に流れた。

 そのことで、えも言われぬ呪縛から束の間開放されたと羽住はすみは胸を撫で下ろす。

 背中を嫌な汗が伝っているのを感じながら、今この時を逃したら、自分は眼前の男に何も言い返せない情けない男になってしまうと思った。


「――えっと……すみません。ひお……貴方の奥さんが……その、ご主人に遠慮しているとばかり思っていたものですから……」

 実際は違ったみたいだが、と思いながらうのていで言ったら、日織ひおりがすぐさま反論してきた。

修太郎しゅうたろうさんはとてもとてもお優しいのです! 私を縛りつけたりはなさいません! 2次会には参加いたしませんと申し上げたのも、今日はもう帰りますと判断いたしましたのも、全部私自身の意志なのですっ!」

(ああ、分かってるって)

 一生懸命旦那をかばう日織を脱力感とともに見て、羽住はすみは自分の道化どうけぶりにほとほと嫌気がさした。

 きっと日織は、自分が2次会に出たいと言えば、眼前の旦那は許してくれたはずだと信じて疑っていないのだろう。

(ま、ぶっちゃけ実際はどうだか怪しいもんだけどな――)

 これ以上この嫉妬深そうな男が、愛する妻を自分みたいな男たちが何人いるとも分からないような目の届かない場所に置いておけるとは、羽住はすみには到底思えない。

 そもそも今日の同窓会への参加をOKしたこと自体、奇跡なんじゃないかとすら思った。


 すぐそばの修太郎しゅうたろうを、全幅の信頼を寄せたキラキラとした目で一瞬だけ見上げた後、日織ひおり羽住はすみの先程の行いを責めるようにキッと睨みつけてきた。
 今まで見たことのない日織の強い視線を今日だけで2度も受けながら、羽住はすみは小さく吐息を落とす。

(なぁ、日織よ。お前には悪いんだけどさ。俺、お前が2次会に行きたいって言ったとして……、その男にうまいこと丸め込まれて結局行けねぇ未来しか見えねーんだけど)

 さすがにそれを言う勇気は、今の羽住はすみにはない。


「本当、すまなかったな? ――全部俺の勘違いだったみたいだわ」

 吐息混じりにそう言って頭を下げる羽住はすみに、今まで黙って日織と羽住はすみのやり取りを傍観していた修太郎が口を開いた。
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