【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
18 / 105
3.今の男は誰ですか?

宣戦布告

しおりを挟む
***


 日織ひおりは、羽住はすみから散々誘われたけれど、二次会は固辞させてもらった。

 一刻も早く大好きな修太郎しゅうたろうの顔を見たかったからだ。

 別に羽住はすみに言われたアレコレが引っかかっているわけではないと思いたいけれど、一緒に住めていない現状をかんがみると、2人でいられる時間は極力ともに過ごしたい、過ごさなくちゃいけない!と強く感じてしまった。

 羽住はすみからの誘いを断る時、そんなあれこれにとらわれていたら、思いのほか表情が曇っていたらしく、やたらと心配されてしまった。

 ――いわく、「お前、ホントにその旦那と結婚して幸せなのか? 辛いんじゃないのか?」と。


 羽住はすみのその問いかけで日織は余計に決心したのだ。
 会場を出たら、すぐにでも修太郎さんに連絡を取ろう、と。

 大好きな修太郎の顔を見れば、今思い悩んでいることなど些末さまつなことだと流せる気がした。


***


修太郎しゅうたろうさんっ。同窓会、終わったのです」


 同窓会会場から出て少し行った先。

 長椅子の置かれた辺りまで来たところで、日織ひおりは窓外を眺めながらクロークから受け取ったばかりのコートを小脇に抱えて、いそいそと修太郎に電話を掛けた。

 コール数回で『日織さん?』という大好きな低音ボイスが耳を震わせて。

 離れていたのはたったの数時間なのに、日織はキュンと胸が締め付けられるような切なさを覚えた。

 マスオさん状態?じゃなくったって、普通の夫婦みたいな有りようじゃなくったって……修太郎さんと自分は紛れもなく夫婦なのだと、スマートフォンをギュッと握りしめて誰にともなく言い訳をする。


 と、そこで――。


「なぁ、。ホントに二次会来ねぇの? 俺、お前が来てくんねぇとマジ詰まんねぇんだけど。――ほら、さっきの話ももうちょっと煮詰めてぇしよ。……来いよ」

 みんなと一緒に二次会会場に向かったはずの羽住はすみが、何故か窓辺で外の方を向いて立つ日織ひおりの肩をポンと叩いてそう声を掛けてきて。

「ひゃわっ」

 全神経を修太郎しゅうたろうとの電話に傾けていた日織は、突然のボディータッチと呼び掛けに必要以上に身体を跳ねさせてしまった。

 ビクッとなった反動で、手にしていたスマートフォンとコートが、柔らかなウィルトン織りのカーペット敷きの床に落ちてしまう。

「あー、わりい。電話中だったか」

 言いながら、立ち尽くしたままの日織の代わりに、羽住はすみが落としたスマートフォンとコートを拾って「旦那?」と聞きながら手渡してくれて。


 それにうなずきながら受け取った携帯の電話口からは、『日織さんっ!?』とどこか慌てた様子の修太郎の声が聞こえていた。


「あ、しゅ、修太郎しゅうたろうさん、ごめんなさいっ! わ、私っ、今お電話を落としてしまって……それでっ」

 修太郎の声にハッとした日織ひおりが慌ててそう応えたことに、繋がっている通話の先でホッとしたように吐息を落とす気配がして。

 そうしてすぐ、いつもよりも低められた声音で、
『ところで。今の男は誰ですか?』
 という言葉が聞こえてきた。

 日織は、自分を呼び捨てにして問いかけられたどこか冷たい怒りをはらんだ修太郎の声に、ゾロリと背筋を撫でられた気がした。

「い、今の方は……同級生の――」

 言おうとしたら、横からいきなりスマートフォンを取り上げられて
「初めまして、。――俺、……あ、失礼。えっと……あなたの奥さんの幼なじみの羽住はすみ十升みつたかって言います」

 まるで宣戦布告みたいに、羽住はすみが日織の電話を奪って、わざとらしくそう自己紹介をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

処理中です...