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2.同窓会

幼なじみと言われても

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 きっと他の人からなら旧姓で呼ばれようが、塚田つかだの方で呼ばれようが、気にならなかった気がする。

 日織ひおりは、〝羽住はすみ十升みつたかというイジメっ子〟が、当時と変わらぬ呼び方で呼んでくるから、また意地悪されるんじゃないかと身構えて落ち着かないんだ、と気が付いた。

 それで日織は、思い切って言ってみることにしたのだ。

「あの、私、もう藤原ふじわらでは――」
 ないので、塚田のほうで呼んで頂きたいのですっ!と。

 なのにそう言おうとしたら、羽住はすみがそのセリフをさえぎるようにして「水臭みずくせぇこと言うなよ、藤原。俺たち幼なじみだろ?」とか、これまた日織にとっては青天の霹靂へきれき以外の何ものでもないことをさらりと告げてきて。

「わ、私の幼なじみはひとりしかいないのですっ」

 遠い地に引っ越してしまった、1つ年下の丸山まるやま葵咲きさきという女の子だけが、唯一日織が認識している幼なじみだ。

 その子だけが、変な口調の日織とも、何の偏見も持たずに接してくれた。

 他の子達はみんな――。


「って言うかお前、まだその口調直ってねぇのな?」

 ククッと喉の奥で笑われて、日織ひおりはすごく嫌な気持ちになる。

 そう。この人もだけど、他のみんなだってそうだった。

 自分でもこの口調が他の子達とは違うと分かっていても、幼い頃からずっとそういう喋り方で、直そうと思ったら喋れなくなってしまって。

 だったら喋らなくてもいいかなと口を閉ざしていたら、「何で喋らないの?」と責められて。


 日織にとって、子供の頃の思い出はそんなのばかりなのだ。

 どの口が〝幼なじみ〟だなんて馬鹿なことを言うんだろう?


「なに? マジで忘れてるわけ? 藤原ふじわら、子供ん時、俺んの酒蔵によく親父さんに連れられて来てたじゃん? 親たちが話し込んでる間、俺、兄貴と一緒にお前の暇つぶしに付き合ってやっただろ? 覚えてねぇの?」

 酒蔵で、よく遊んでやっただろ?みたいにほのめかされて、日織は我慢出来なくなる。

「俺、それ以外でも結構お前のこと気にかけてと思うんだけど?」

 日織は、無神経にもそんなことを次々に言い募ってくる羽住はすみをキッ!と睨み付けた。
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