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2.同窓会

羽住十升という男

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 同窓会は3月の半ばに開催された。
 まだまだ冷え込む折とは言え、ホテル内は空調が効いていて寒くないため、みんな羽織ってきたコート類は受付付近のクロークに預けて、会場内ではそこそこ軽装で。


藤原ふじわらがこういう席に顔を出すなんて、すげぇ意外だったんだけど」

 胸に〝羽住はすみ 十升みつたか〟と書かれた名札をつけた男性に声をかけられて、日織ひおりは思わずビクッとなる。

 ネイビーのコーチジャケットとパンツに、白のロングTシャツを合わせた、割とカジュアルな服装の彼は、子供の頃に日織をよく揶揄からかってきた、苦手な男の子だ。

 ツーブロックにラフなスパイラルパーマを当てた、ブラウン系の髪。

 子供の頃は染めたりしていない黒髪を、かなり短めのスポーツ刈りにしていたから随分印象が違っていて、名札を目にするまでは誰か分からなかった。

 けれど、よく見ればいわゆるソース顔のその面差しに、幼い頃の面影がある。

 一般的に見ればハンサム、なんだと思う。

 でも日織には醤油顔系の修太郎しゅうたろうの方が何倍もかっこよく見えるし、性格だって修太郎の方が優しくて一緒にいて居心地がいい。

 結婚していれば今の名前のそばにカッコ書きで旧姓も記すように言われていたので、日織のワンピースの胸元にはちゃんと〝塚田つかだ(藤原)日織〟と明記してある。

 なのに、あえて子供の頃のように旧姓で呼びかけられたことに何となく落ち着かないものを感じてしまった。

 いや、幼い頃から見知った者同士ともなれば、そちらが「慣れ」という観点からは普通なのは分かっているつもりだ。
 でも、日織ひおりには元々同級生にそんなに親しい友達なんていなかったし、それはやたらと絡んできていた眼前の男に対しても同様なわけで。

 日織ひおりが、クラスメイトから「藤原ふじわらさん」と呼び掛けられることがあるとすれば、係の用事なんかがあるときぐらいだった。

 放課後一緒に帰ろうとか、ましてや遊びに行こうとか、そういう私的なことで名前を呼ばれたこと自体が皆無だったし、羽住はすみ十升みつたかという男子にしても名前を呼ばれるよりも「お前」呼ばわりされる方が圧倒的に多かったと記憶している。

 ならば今更旧姓の「藤原」にこだわらなくとも、「塚田つかだ」で呼んでくれたらいいのではないかと思ったりして。

(――あ、やっぱり違いますっ)
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