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あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い
作戦成功
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「ごめんなさい……」
私を責めることが出来ず、黙り込んでハラハラと涙をこぼすなっちゃんに、私は謝ることしか出来なかった。
その謝罪がなおちゃんのそばにいられなかったことに対してなのか、なおちゃんの自殺を止められなかったことに対してなのか、はたまたなっちゃんに辛いことを全て背負わせて、自分だけ蚊帳の外で幸せを噛み締めてしまっていたことに対してなのか、自分でも分からなくて。
「……それは……何に対する謝罪ですか?」
なっちゃんにポツンと問い掛けられたけれど私はうまく答えることが出来なくて、聞こえなかったふりをした。
***
なっちゃんとともにお通夜に参列して……変わり果てたなおちゃんの顔を見た。
縊死、というともっと顔が浮腫んだり苦しそうに歪んでいたりするのかなと覚悟して彼の顔を見たのだけれど。
なおちゃんは思いのほか穏やかな顔をして棺に横たわっていた。
きっと鬱血痕の残っているであろう首の辺りも、棺の小窓から覗いたのでは見えないように工夫が施されていて。
その顔が、顔色が悪いということ以外あまりにもいつも通りに見えたから。
私はまたしても彼の死を明確に受け入れることが出来なくて、そこでもやっぱり涙が出てこなかった。
ポロポロと涙をこぼして棺の中の彼を見つめるなっちゃんを支えるようにして……私はぼんやりと(どうして私、こんなに悲しいのにちっとも泣けないんだろう)とそればかりを考えていた。
別れ際、なっちゃんに「菜乃香さんはもうなおさんのこと、何とも思ってらっしゃらないんですね。一粒も涙を流さないなんて……何だかなおさんが可哀想です」と強い目で責められたけれど……。
私はそれを否定することも肯定することもせず、無言のままなっちゃんに深く深くお辞儀をして、彼女とさよならをした。
きっとなっちゃんは、いつもなおちゃんから存在をアピールされまくっていた〝戸倉菜乃香という存在〟を確認して、なおちゃんには私だけじゃなく〝古田夏美という恋人〟もいたんだと一矢報いたかったんだろうな。
なっちゃんは懸命にひた隠しにしていたけれど、端々に漏れ出る私に対する敵意をひしひしと感じて、私はそんな風に思った。
なっちゃん。
貴女の作戦はきっと大成功だよ。
今はたっくんという大切な伴侶がいるくせに、私は少なからずなおちゃんに裏切られていたという事実にショックを受けているのだから。
***
なっちゃんと別れた後、私は一人、あてもなく車を走らせて。
なおちゃんと行った場所をあちらこちら何の目的も脈絡もなく彷徨いた。
途中で車を停めてなおちゃんに電話してみたけれど当然のように圏外のアナウンスが流れるばかりで応答なんてなくて。
私は、この期に及んでやっと。
本当に彼はこの世からいなくなってしまったのかな?とぼんやり考えた。
たっくんに連絡も入れないままあちこち動き回って……ぼんやりとした頭で帰宅したら、二十三時を過ぎていた。
そんなだったのに、たっくんは寝ないで私の帰りを待っていてくれて。
それが何だかたまらなく申し訳なくて……消えてしまいたくなった。
「菜乃香、お帰り」
何故こんなに遅くなったの?とかそういうことは一切聞かないたっくんにギュッーと抱き締められて初めて。
私は声を上げてわんわん泣いた。
私はこんな優しい人を差し置いて……あのとき私がなおちゃんの求めに応じていたら或いは彼は死なないでいられたの?とか。
あてもなくなおちゃんとの思い出が詰まった場所を転々と彷徨うように車を走らせながら、このままどこかへ突っ込んで、なおちゃんの後を追ってしまおうか、とか。
ご飯を食べずにいたら何日くらいで死ねるんだろう?とか。
そんな不毛な想いに捕らわれ続けている自分のことも、許せなかった。
私を責めることが出来ず、黙り込んでハラハラと涙をこぼすなっちゃんに、私は謝ることしか出来なかった。
その謝罪がなおちゃんのそばにいられなかったことに対してなのか、なおちゃんの自殺を止められなかったことに対してなのか、はたまたなっちゃんに辛いことを全て背負わせて、自分だけ蚊帳の外で幸せを噛み締めてしまっていたことに対してなのか、自分でも分からなくて。
「……それは……何に対する謝罪ですか?」
なっちゃんにポツンと問い掛けられたけれど私はうまく答えることが出来なくて、聞こえなかったふりをした。
***
なっちゃんとともにお通夜に参列して……変わり果てたなおちゃんの顔を見た。
縊死、というともっと顔が浮腫んだり苦しそうに歪んでいたりするのかなと覚悟して彼の顔を見たのだけれど。
なおちゃんは思いのほか穏やかな顔をして棺に横たわっていた。
きっと鬱血痕の残っているであろう首の辺りも、棺の小窓から覗いたのでは見えないように工夫が施されていて。
その顔が、顔色が悪いということ以外あまりにもいつも通りに見えたから。
私はまたしても彼の死を明確に受け入れることが出来なくて、そこでもやっぱり涙が出てこなかった。
ポロポロと涙をこぼして棺の中の彼を見つめるなっちゃんを支えるようにして……私はぼんやりと(どうして私、こんなに悲しいのにちっとも泣けないんだろう)とそればかりを考えていた。
別れ際、なっちゃんに「菜乃香さんはもうなおさんのこと、何とも思ってらっしゃらないんですね。一粒も涙を流さないなんて……何だかなおさんが可哀想です」と強い目で責められたけれど……。
私はそれを否定することも肯定することもせず、無言のままなっちゃんに深く深くお辞儀をして、彼女とさよならをした。
きっとなっちゃんは、いつもなおちゃんから存在をアピールされまくっていた〝戸倉菜乃香という存在〟を確認して、なおちゃんには私だけじゃなく〝古田夏美という恋人〟もいたんだと一矢報いたかったんだろうな。
なっちゃんは懸命にひた隠しにしていたけれど、端々に漏れ出る私に対する敵意をひしひしと感じて、私はそんな風に思った。
なっちゃん。
貴女の作戦はきっと大成功だよ。
今はたっくんという大切な伴侶がいるくせに、私は少なからずなおちゃんに裏切られていたという事実にショックを受けているのだから。
***
なっちゃんと別れた後、私は一人、あてもなく車を走らせて。
なおちゃんと行った場所をあちらこちら何の目的も脈絡もなく彷徨いた。
途中で車を停めてなおちゃんに電話してみたけれど当然のように圏外のアナウンスが流れるばかりで応答なんてなくて。
私は、この期に及んでやっと。
本当に彼はこの世からいなくなってしまったのかな?とぼんやり考えた。
たっくんに連絡も入れないままあちこち動き回って……ぼんやりとした頭で帰宅したら、二十三時を過ぎていた。
そんなだったのに、たっくんは寝ないで私の帰りを待っていてくれて。
それが何だかたまらなく申し訳なくて……消えてしまいたくなった。
「菜乃香、お帰り」
何故こんなに遅くなったの?とかそういうことは一切聞かないたっくんにギュッーと抱き締められて初めて。
私は声を上げてわんわん泣いた。
私はこんな優しい人を差し置いて……あのとき私がなおちゃんの求めに応じていたら或いは彼は死なないでいられたの?とか。
あてもなくなおちゃんとの思い出が詰まった場所を転々と彷徨うように車を走らせながら、このままどこかへ突っ込んで、なおちゃんの後を追ってしまおうか、とか。
ご飯を食べずにいたら何日くらいで死ねるんだろう?とか。
そんな不毛な想いに捕らわれ続けている自分のことも、許せなかった。
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