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あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い
古い家で
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なおちゃんにはそういう狡猾さがあったけれど、コソコソと常に携帯を持ち歩いていたら逆に奥さんから怪しまれるから、という理由で携帯の扱い自体は割とぞんざいで。
私と一緒にいる時も、しょっちゅうトイレなどで離席する際なんか、平気で携帯を机上に置き去りにしていた。
私相手のその行動なんて、お互いの誕生日を暗証番号に設定していて、ロックが無意味なことも承知の上での所業だったのだから、浮気慣れして本当に肚が据わっていたんだろうな。
だってなおちゃん、私にはなっちゃんの存在、隠したかったはずなのに、そんなだったんだもん。
確かに堂々とされていたら、逆に携帯を見ようだなんて思わないんだと、私は今頃になって身をもって思い知らされている。
私の名前も――おそらくはなっちゃんの名前も――変にあだ名とかではなく普通にフルネームで登録してあって。色んな仕事関係の人たちの連絡先と相まって……きっとなおちゃんの携帯の電話帳の中、逆に目立たなくなっていたはずだ。
「菜乃香さんのお名前もお話も……なおさんから本当にしょっちゅう聞かされていたから、彼の電話帳のなかからあなたの連絡先を探し出すの、結構簡単でした」
そう言って涙目で微笑んだなっちゃんに、私は何と答えたらいいか分からなくて。
結局何も言えないままにうつむくことしか出来なかった。
***
「なおさん……古い家の方で首を吊って亡くなったんだそうです。第一発見者は彼の上の息子さんで……死亡推定時刻は午前七時頃だとか」
なおちゃんとなっちゃんの職場は同じごみ処理場第一工場。
その朝礼で、皆が集められて工場長からそんな話を聞かされたらしい。
(古いお家で……)
なおちゃんが、わざわざ自分が生まれ育った生家での最期を選んだ理由は何だったんだろう。
私も、なおちゃんが数年前に生まれ育った家を出て、新しく別の土地に家を新築したのは知っていた。
私は彼が家の建て替えに備えて色々住宅展示場などを巡るのに付き合わされていたから。
自分が住むわけでもない家を『奥様』と呼ばれながら見るのは何だか切なくて悲しくて。
なおちゃんはそういう残酷なところが時折垣間見える人だった。
きっと彼自身には悪気なんてなくて……必要だから一緒に行く。
行けば菜乃香も楽しめるよね?ぐらいの感覚だったんだと思う。
私は愚かにも、もしかしたら彼が私との結婚を視野に入れて家の建て替えを検討してくれているのかも?とか馬鹿な期待をして。
そうじゃないと思い知らされて、死ぬほど辛くなったのだ。
私と一緒にいる時も、しょっちゅうトイレなどで離席する際なんか、平気で携帯を机上に置き去りにしていた。
私相手のその行動なんて、お互いの誕生日を暗証番号に設定していて、ロックが無意味なことも承知の上での所業だったのだから、浮気慣れして本当に肚が据わっていたんだろうな。
だってなおちゃん、私にはなっちゃんの存在、隠したかったはずなのに、そんなだったんだもん。
確かに堂々とされていたら、逆に携帯を見ようだなんて思わないんだと、私は今頃になって身をもって思い知らされている。
私の名前も――おそらくはなっちゃんの名前も――変にあだ名とかではなく普通にフルネームで登録してあって。色んな仕事関係の人たちの連絡先と相まって……きっとなおちゃんの携帯の電話帳の中、逆に目立たなくなっていたはずだ。
「菜乃香さんのお名前もお話も……なおさんから本当にしょっちゅう聞かされていたから、彼の電話帳のなかからあなたの連絡先を探し出すの、結構簡単でした」
そう言って涙目で微笑んだなっちゃんに、私は何と答えたらいいか分からなくて。
結局何も言えないままにうつむくことしか出来なかった。
***
「なおさん……古い家の方で首を吊って亡くなったんだそうです。第一発見者は彼の上の息子さんで……死亡推定時刻は午前七時頃だとか」
なおちゃんとなっちゃんの職場は同じごみ処理場第一工場。
その朝礼で、皆が集められて工場長からそんな話を聞かされたらしい。
(古いお家で……)
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私も、なおちゃんが数年前に生まれ育った家を出て、新しく別の土地に家を新築したのは知っていた。
私は彼が家の建て替えに備えて色々住宅展示場などを巡るのに付き合わされていたから。
自分が住むわけでもない家を『奥様』と呼ばれながら見るのは何だか切なくて悲しくて。
なおちゃんはそういう残酷なところが時折垣間見える人だった。
きっと彼自身には悪気なんてなくて……必要だから一緒に行く。
行けば菜乃香も楽しめるよね?ぐらいの感覚だったんだと思う。
私は愚かにも、もしかしたら彼が私との結婚を視野に入れて家の建て替えを検討してくれているのかも?とか馬鹿な期待をして。
そうじゃないと思い知らされて、死ぬほど辛くなったのだ。
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