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母との別れと、なおちゃんからのSOS
あべこべな花嫁
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***
「たっくん。私、たっくんのお陰でお母さんにウェディングドレス姿を見せることが出来て……本当に幸せだったよ。有難う」
たっくんはお母さんがまだ比較的元気な間に、私に花嫁衣装を着せてくれて。
自分の足のリハビリと仕事の合間を縫うように病院のスタッフさんとの交渉もしてくれて、私はたっくんと二人、新郎新婦としての姿をお母さんに見せることが出来た。
それは、お母さんが亡くなるつい数日前のことだったから。
お母さんに、お嫁さんになった自分の姿を見てもらえたのは奇跡だったんじゃないかと思う。
もちろん、お母さんが亡くなった日も、お通夜や葬儀のときも、たっくんは私のそばでずっと私を支えてくれていた。
それが、どんなに心強かったか――。
『足がこんなじゃなけりゃ、もっと役に泣てたんだけど』
母の棺桶を持ち上げたりと、男手がいる時に手助け出来なかったことを悔やむたっくんに、私は『そばにいてくれただけで凄く有難かったよ』と告げて。
『足が治ったら、沢山沢山力仕事をしてね』と付け加えたら、たっくんは照れ臭そうに『任せといて』と微笑んでくれた。
本来ならば先に済ませなければいけなかったたっくんのご両親――波野家――へのご挨拶や、両家の顔合わせ。それから式場を押さえての挙式や入籍などは、お母さんの四十九日が済んでから動こうと二人で話した結果、どんどん後回しになって。
お母さんが亡くなったのは六月末だったのに、あれやこれやと片付けていたら、思いのほか時間がかかってしまった。
気が付けば、私とたっくんのことが正式に全て済んだ頃には二月初旬になっていた。
その間、たっくんは『せっかくの準備期間だ。婚約者気分を味わおう?』と言って、私にダイヤの付いた婚約指輪を贈ってくれて。
私はウェディングドレスを着た後にエンゲージリングを薬指にはめるという、一般的な花嫁さんとはちょっぴり順序がごちゃごちゃなお嫁さんになった。
でも――。
挙式も何もかも全てが終わった今、私の左手薬指にはたっくんとおそろいのシンプルな結婚指輪がはまっている。
***
「たっくん、ごめんね。私のせいで色々あべこべになっちゃって」
アパートを新しく借り直してたっくんと二人。愛フェレットの直太朗を連れ子に、私は新生活を始めたばかり。
伴侶を亡くしたお父さんを一人にするのはすごく心配だったけれど、お父さんは犬や猫に囲まれて毎日忙しくしているから大丈夫だ、と私の背中を押してくれた。
お母さんが亡くなってから半年以上。
私がウダウダと自分のそばを離れずに一緒に暮らしていたことを、お父さんは結構もどかしく思っていたみたい。
お母さんが存命の頃は、炊飯器でご飯を炊くことも出来ないような、典型的な昭和男だったお父さんが、お米を研いで自炊をするようになって。
メバルの煮つけを作ってくれて、それを私にふるまってくれながら、「わしは何でも一人で出来るようになったのに、菜乃香はいつまで建興くんを待たせるつもりだ?」と叱られてしまった。
「たっくん。私、たっくんのお陰でお母さんにウェディングドレス姿を見せることが出来て……本当に幸せだったよ。有難う」
たっくんはお母さんがまだ比較的元気な間に、私に花嫁衣装を着せてくれて。
自分の足のリハビリと仕事の合間を縫うように病院のスタッフさんとの交渉もしてくれて、私はたっくんと二人、新郎新婦としての姿をお母さんに見せることが出来た。
それは、お母さんが亡くなるつい数日前のことだったから。
お母さんに、お嫁さんになった自分の姿を見てもらえたのは奇跡だったんじゃないかと思う。
もちろん、お母さんが亡くなった日も、お通夜や葬儀のときも、たっくんは私のそばでずっと私を支えてくれていた。
それが、どんなに心強かったか――。
『足がこんなじゃなけりゃ、もっと役に泣てたんだけど』
母の棺桶を持ち上げたりと、男手がいる時に手助け出来なかったことを悔やむたっくんに、私は『そばにいてくれただけで凄く有難かったよ』と告げて。
『足が治ったら、沢山沢山力仕事をしてね』と付け加えたら、たっくんは照れ臭そうに『任せといて』と微笑んでくれた。
本来ならば先に済ませなければいけなかったたっくんのご両親――波野家――へのご挨拶や、両家の顔合わせ。それから式場を押さえての挙式や入籍などは、お母さんの四十九日が済んでから動こうと二人で話した結果、どんどん後回しになって。
お母さんが亡くなったのは六月末だったのに、あれやこれやと片付けていたら、思いのほか時間がかかってしまった。
気が付けば、私とたっくんのことが正式に全て済んだ頃には二月初旬になっていた。
その間、たっくんは『せっかくの準備期間だ。婚約者気分を味わおう?』と言って、私にダイヤの付いた婚約指輪を贈ってくれて。
私はウェディングドレスを着た後にエンゲージリングを薬指にはめるという、一般的な花嫁さんとはちょっぴり順序がごちゃごちゃなお嫁さんになった。
でも――。
挙式も何もかも全てが終わった今、私の左手薬指にはたっくんとおそろいのシンプルな結婚指輪がはまっている。
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「たっくん、ごめんね。私のせいで色々あべこべになっちゃって」
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伴侶を亡くしたお父さんを一人にするのはすごく心配だったけれど、お父さんは犬や猫に囲まれて毎日忙しくしているから大丈夫だ、と私の背中を押してくれた。
お母さんが亡くなってから半年以上。
私がウダウダと自分のそばを離れずに一緒に暮らしていたことを、お父さんは結構もどかしく思っていたみたい。
お母さんが存命の頃は、炊飯器でご飯を炊くことも出来ないような、典型的な昭和男だったお父さんが、お米を研いで自炊をするようになって。
メバルの煮つけを作ってくれて、それを私にふるまってくれながら、「わしは何でも一人で出来るようになったのに、菜乃香はいつまで建興くんを待たせるつもりだ?」と叱られてしまった。
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