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梅雨の長雨―忘却―
トルコ桔梗
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貧血のためだろうか。
お母さんはこのところ氷をやたらと食みたがる。
お医者様からは大量の氷を食べるのは胃腸に負担がかかってよくないので、一個をゆっくりゆっくり舐め溶かすように言われているのだけれど。
「味はなくてもいいの。とにかく氷をガリガリ噛みたいのよね」
そう言って吐息を落とすお母さんに、
「そっか。じゃあ明日来るときなるべく粒の大きそうな氷菓子を買ってくるね」
そう答えながら、買ってくるなら途中で食べるのをやめることが出来る、カップ入りの氷菓『コオリボックス』だな、と思った。
「……代わりというのも変な話だけど、今日は私、お花を買ってきたの。置いといてしおれたら可哀想だし、先に花瓶へ活けてくるね」
梅雨のじめじめした天候は、空だけでなく気持ちもどんよりさせがちだったから。
花を飾ったら、殺風景な病室が少しは華やぐかな?と思ったの。
タツ兄――たっくんと呼ぶ練習をしている真っ最中です――は今日、お仕事でどうしても来られないと連絡があったから。
いつも彼と合流するのに要している時間を使って、花屋さんに寄ってみたのだ。
花屋の店先に並んだバケツの中、白地に青紫色の縁取り――覆輪――が美しい、一重咲きのトルコ桔梗を見つけた私は、何の迷いもなくそれを選んで包んでもらった。
というのも、トルコ桔梗はお母さんの大好きな花のひとつだったからだ。
お母さんがまだ元気な時、よくトルコ桔梗を買ってきては玄関先の花瓶に活けて、「綺麗でしょう? お母さん、トルコ桔梗、大好きなの」と言っていたのを覚えている。
花にはそれほど詳しくない私だったけれど、トルコ桔梗はそんな感じ。幼い頃からしょっちゅうお母さんに名前を聞かされ、実物を見せられていた花だったから、名札を見るまでもなくすぐにそれだと分かったの。
長さを適当に調整して花瓶に活けた花を持って病室へ戻ってきた私を目で追いながら、お母さんが「綺麗ね」とつぶやいて。
私は「うん、そうね」って答えながら、買ってきて良かったって思ったんだけど――。
お母さんはこのところ氷をやたらと食みたがる。
お医者様からは大量の氷を食べるのは胃腸に負担がかかってよくないので、一個をゆっくりゆっくり舐め溶かすように言われているのだけれど。
「味はなくてもいいの。とにかく氷をガリガリ噛みたいのよね」
そう言って吐息を落とすお母さんに、
「そっか。じゃあ明日来るときなるべく粒の大きそうな氷菓子を買ってくるね」
そう答えながら、買ってくるなら途中で食べるのをやめることが出来る、カップ入りの氷菓『コオリボックス』だな、と思った。
「……代わりというのも変な話だけど、今日は私、お花を買ってきたの。置いといてしおれたら可哀想だし、先に花瓶へ活けてくるね」
梅雨のじめじめした天候は、空だけでなく気持ちもどんよりさせがちだったから。
花を飾ったら、殺風景な病室が少しは華やぐかな?と思ったの。
タツ兄――たっくんと呼ぶ練習をしている真っ最中です――は今日、お仕事でどうしても来られないと連絡があったから。
いつも彼と合流するのに要している時間を使って、花屋さんに寄ってみたのだ。
花屋の店先に並んだバケツの中、白地に青紫色の縁取り――覆輪――が美しい、一重咲きのトルコ桔梗を見つけた私は、何の迷いもなくそれを選んで包んでもらった。
というのも、トルコ桔梗はお母さんの大好きな花のひとつだったからだ。
お母さんがまだ元気な時、よくトルコ桔梗を買ってきては玄関先の花瓶に活けて、「綺麗でしょう? お母さん、トルコ桔梗、大好きなの」と言っていたのを覚えている。
花にはそれほど詳しくない私だったけれど、トルコ桔梗はそんな感じ。幼い頃からしょっちゅうお母さんに名前を聞かされ、実物を見せられていた花だったから、名札を見るまでもなくすぐにそれだと分かったの。
長さを適当に調整して花瓶に活けた花を持って病室へ戻ってきた私を目で追いながら、お母さんが「綺麗ね」とつぶやいて。
私は「うん、そうね」って答えながら、買ってきて良かったって思ったんだけど――。
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