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梅雨の長雨―忘却―

連絡先

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 そんな大病院のメイン入口に当たるこんなところでラブシーンなんて繰り広げているのだから、注目されてしまうのは当然なわけで。

 私の言葉にタツ兄が慌ててパッと手を離して。
 きっと無意識に怪我した方の足を地面についてしまったんだろう。

いてっ」

 と言ってふらつくから。

 私は慌てて彼を支えると、タツ兄がバランスを取り戻したのを確認して、肩の荷物を落とさないよう気を付けながら足元の松葉杖を拾い上げた。

 それを手渡しながら「バカ……」とつぶやいたら、タツ兄が「ごめん、嬉しくてつい……」と申し訳なさそうに眉根を寄せるの。

 彼のその顔を見て、私は真っすぐに向けられるタツ兄からの温かな好意をひしひしと感じて、胸の奥がほわりと温かくなる。

 こんな風に真摯しんしに誰かから想ってもらえたのは本当に久々で。

 なおちゃんからの〝好き〟は、始まった瞬間から奥さんと二股をかける旨を宣言されていたことを思い出した。

 未だ未練がましく消せてもいなければ、着信拒否にも出来ていないなおちゃんの連絡先が、スマートフォンの中に残っている。

 でも、別れを切り出したあの日以降なおちゃんから私に連絡が入ることはなかったから――。

 なおちゃんの中で私の順位は一体まで落ちていたんだろう?とふと思ってしまった。

 カバンの中に入ったままのスマートフォン。

 今は荷物をどっさり持っていて取り出せないけれど……家に帰ったら今度こそ『緒川おがわ直行なおゆき』という連絡先を消すことが出来る、と確信した。


***


 タツ兄とのお付き合いを始めてすぐ、私はなおちゃんの連絡先をスマートフォンの中から削除した。

 その際、残ったままになっていた着信履歴や発信履歴もオールリセットして……。

 近所のお兄ちゃんという意味合いで『タツ兄』と登録していたの名前を、『波野なみの建興たつおき』と、彼のフルネームで登録し直した。

 日を追えば追うほど着信履歴も発信履歴もお父さん、お母さんを追い上げる勢いで『波野建興』で侵食されていく。

 そのことが何だか照れ臭くてたまらなく面映おもはゆいの。


 結局あれっきりなおちゃんからは連絡が入ってこない。

 そのことを最初のうちこそ悲しく思っていた私だったけれど、タツ兄との日々のなかで段々気にしなくなっていった。

 それに――。


***


「お母さん、調子どう?」

「うん。今日もとっても元気よ。お昼過ぎにね、お父さんがアイスを買って来てくれたんだけど……お母さん、丸々一個一人で食べられちゃったの。すっごく美味しかったんだけどね、お母さん、本当はバニラアイスよりかき氷系のアイスの方が食べたかったのよ。――せっかく買って来てくれたから言えなかったんだけど」
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