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梅雨の長雨―忘却―
折り合いをつけるための時間
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「タツ兄……」
私のすぐ背後に立っていたのはお母さんの手術前日、なおちゃんとのことを打ち明けたまま疎遠になっていたタツ兄で。
一ヶ月くらい音信不通だった間に退院したのかな?
タツ兄の服装がパジャマではなく私服になっていることに、時間経過を見せつけられた気がした。
突然現れたタツ兄を前に、驚いた顔をして固まってしまった私に、バツが悪そうにタツ兄の視線が一瞬だけ伏せられる。
でも、すぐに意を決したみたいに私に向き直ると、
「ずっと連絡しなくてごめん。自分なりに気持ちの整理したくてウダウダしてたら、あっという間にこんなに時間が経ってしまってた……」
言って、タツ兄が頭をガバリと下げて。
そうした瞬間、肩の荷へ添えられたままだった彼の手にグッと力がこもって、私はそちらへ引っ張られそうになってよろめいてしまう。
というのも、タツ兄はまだ松葉杖を要する身だったからだ。
「ごめん……!」
私を支えにしてしまったことを申し訳なさそうに謝るタツ兄へ、私は「大丈夫だよ」と答える。
タツ兄は少し逡巡して私の荷物から手を離すと、杖を支えにして体勢を立て直した。
「ああでもない、こうでもないと思い悩んでる内に退院なんかと重なってバタバタしちゃって……。ここを出る日、なのちゃんに連絡しようかとも思ったんだけど……意気地がなくて出来なかった。……本当にごめん」
あの日、何も言えずにいたタツ兄に、『告白してくれたの、忘れてくれて大丈夫だから』と告げて立ち去った私の後ろ姿を思い出すと、どうしても勇気が出せなかったんだとタツ兄が言う。
「ホントはあの時、すぐにでも『大丈夫だよ。僕は気にしない』ってなのちゃんを引き留めるべきだったのに……。僕の中のなのちゃんは幼い頃の印象が強すぎて。不倫をしていたと告白してくれたキミと、僕の中のなのちゃんがどうしても結びつかなかった」
何年も会わずにいたのだ。
その間に自分が知らないなのちゃんが増えていることは仕方がないことじゃないかと――。
それでもその不毛な関係を自分の目の前で断ち切ってくれたなのちゃんを僕は信じるべきだったんじゃないのか?と――。
そう自分に言い聞かせ、心に折り合いを付けるのに随分時間を要してしまったのだとタツ兄が淡く微笑んだ。
私のすぐ背後に立っていたのはお母さんの手術前日、なおちゃんとのことを打ち明けたまま疎遠になっていたタツ兄で。
一ヶ月くらい音信不通だった間に退院したのかな?
タツ兄の服装がパジャマではなく私服になっていることに、時間経過を見せつけられた気がした。
突然現れたタツ兄を前に、驚いた顔をして固まってしまった私に、バツが悪そうにタツ兄の視線が一瞬だけ伏せられる。
でも、すぐに意を決したみたいに私に向き直ると、
「ずっと連絡しなくてごめん。自分なりに気持ちの整理したくてウダウダしてたら、あっという間にこんなに時間が経ってしまってた……」
言って、タツ兄が頭をガバリと下げて。
そうした瞬間、肩の荷へ添えられたままだった彼の手にグッと力がこもって、私はそちらへ引っ張られそうになってよろめいてしまう。
というのも、タツ兄はまだ松葉杖を要する身だったからだ。
「ごめん……!」
私を支えにしてしまったことを申し訳なさそうに謝るタツ兄へ、私は「大丈夫だよ」と答える。
タツ兄は少し逡巡して私の荷物から手を離すと、杖を支えにして体勢を立て直した。
「ああでもない、こうでもないと思い悩んでる内に退院なんかと重なってバタバタしちゃって……。ここを出る日、なのちゃんに連絡しようかとも思ったんだけど……意気地がなくて出来なかった。……本当にごめん」
あの日、何も言えずにいたタツ兄に、『告白してくれたの、忘れてくれて大丈夫だから』と告げて立ち去った私の後ろ姿を思い出すと、どうしても勇気が出せなかったんだとタツ兄が言う。
「ホントはあの時、すぐにでも『大丈夫だよ。僕は気にしない』ってなのちゃんを引き留めるべきだったのに……。僕の中のなのちゃんは幼い頃の印象が強すぎて。不倫をしていたと告白してくれたキミと、僕の中のなのちゃんがどうしても結びつかなかった」
何年も会わずにいたのだ。
その間に自分が知らないなのちゃんが増えていることは仕方がないことじゃないかと――。
それでもその不毛な関係を自分の目の前で断ち切ってくれたなのちゃんを僕は信じるべきだったんじゃないのか?と――。
そう自分に言い聞かせ、心に折り合いを付けるのに随分時間を要してしまったのだとタツ兄が淡く微笑んだ。
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