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お母さんとの約束
決意が揺らいでしまうかも知れないから
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***
お母さんが「当たり前よ」と答えてくれたのを聞いた瞬間、私の中で何かがカチッと音を立てて切り替わったのが分かった。
「――お母さん、私、ちょっとお父さんを呼びに行ってくるね」
お母さんに声を掛けると、私は携帯をギュッと握りしめて病室を後にする。
頬が涙で濡れてひんやり感じられたけれど、そんなのは気にしない。グズグズな顔をしてたって構わないの。
今は。――今だけは……。ちゃんと顔を上げて、前を向いて歩かなきゃって思った。
それほどまでにお母さんの言葉は私の中で大きくて。
ずっとずっと、私が幸せになることは、お母さんの死と直結していると思い込んできた。
でも、違うんだって思えたから。
だから、今度こそちゃんと――。
私は手にした携帯をギュッと力強く握りしめた。
***
ロビーに行くと、お父さんとタツ兄が窓際の席へ横並びに座って、外を眺めながら自動販売機のカップ入りコーヒーを飲んでいた。
私は二人に近付くと、「お父さん、お母さんが待ってるから行ってあげて?」と声を掛けて。
タツ兄には「お願い。少しの間、そばにいて欲しいの」とお願いをした。
私一人だと決意が揺らいでしまうかも知れないから。
今からすることをお父さんには見られたくないけれど、タツ兄には見ていて欲しい。
私はタツ兄の横に腰かけると、携帯電話の履歴からなおちゃんの電話番号をタップした。
あえてスマートフォンの画面をタツ兄から隠さず操作したのは、沢山残る〝なおちゃん〟の履歴の山を見てもらって、今から電話する相手が私にとって親密な間柄の人なのだと察してもらえたら、とかズルイことを考えてのことだった。
なおちゃんとのこと、タツ兄には言えなくて隠したままでいたけれど、全てを知った上でもう一度私のことを見つめ直して欲しい。
私の汚いところも全部知った上で……それでも私を愛してくれるとタツ兄が言ってくれたなら。
その時こそ私はタツ兄の手を取ろうと思っているの。
***
コール数回。
『……菜乃香? な、にか……あったの?』
どこか息が上がった様子のなおちゃんの声に、私は違和感を覚えて。
私はこういうなおちゃんの声をよく知っていた。
お母さんが「当たり前よ」と答えてくれたのを聞いた瞬間、私の中で何かがカチッと音を立てて切り替わったのが分かった。
「――お母さん、私、ちょっとお父さんを呼びに行ってくるね」
お母さんに声を掛けると、私は携帯をギュッと握りしめて病室を後にする。
頬が涙で濡れてひんやり感じられたけれど、そんなのは気にしない。グズグズな顔をしてたって構わないの。
今は。――今だけは……。ちゃんと顔を上げて、前を向いて歩かなきゃって思った。
それほどまでにお母さんの言葉は私の中で大きくて。
ずっとずっと、私が幸せになることは、お母さんの死と直結していると思い込んできた。
でも、違うんだって思えたから。
だから、今度こそちゃんと――。
私は手にした携帯をギュッと力強く握りしめた。
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ロビーに行くと、お父さんとタツ兄が窓際の席へ横並びに座って、外を眺めながら自動販売機のカップ入りコーヒーを飲んでいた。
私は二人に近付くと、「お父さん、お母さんが待ってるから行ってあげて?」と声を掛けて。
タツ兄には「お願い。少しの間、そばにいて欲しいの」とお願いをした。
私一人だと決意が揺らいでしまうかも知れないから。
今からすることをお父さんには見られたくないけれど、タツ兄には見ていて欲しい。
私はタツ兄の横に腰かけると、携帯電話の履歴からなおちゃんの電話番号をタップした。
あえてスマートフォンの画面をタツ兄から隠さず操作したのは、沢山残る〝なおちゃん〟の履歴の山を見てもらって、今から電話する相手が私にとって親密な間柄の人なのだと察してもらえたら、とかズルイことを考えてのことだった。
なおちゃんとのこと、タツ兄には言えなくて隠したままでいたけれど、全てを知った上でもう一度私のことを見つめ直して欲しい。
私の汚いところも全部知った上で……それでも私を愛してくれるとタツ兄が言ってくれたなら。
その時こそ私はタツ兄の手を取ろうと思っているの。
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コール数回。
『……菜乃香? な、にか……あったの?』
どこか息が上がった様子のなおちゃんの声に、私は違和感を覚えて。
私はこういうなおちゃんの声をよく知っていた。
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