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お母さんとの約束

約束してくれる?

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 私は何も言えないままオロオロと視線を彷徨さまよわせて……挙句お母さんの眼差しから逃れるように顔をうつむけてしまった。

「そっか……やっぱり」

 ややしてお母さんがポツンとつぶやいて。

 私はいたたまれなさに思わずお母さんを見詰めたけれど、何も言葉が出てこなかった。

「ねぇなのちゃん。建興たつおきくんがなのちゃんのことを本気で好きでいてくれてるのは聞いてる?」

 ややしてポツンと……。

 お母さんがまるで話題を変えるみたいにそう言ってくれて。

 私は恐る恐るコクッとうなずいた。

「それを知っても……なのちゃんの気持ちは動かない?」

「あ、あのね、お母さん。今日は私、緒川おがわさんと最後のデートをしてきたの。……それで……タツ兄のことを話して……タツ兄の気持ちに応えるつもりだから……緒川さんとはもう終わりにしたいって……。そう話したの」

 お母さんにどこか縋りつくような視線を向けられて、私は今度こそちゃんとを口にする。

 実際にはまだハッキリとは『別れたい』と言えていない。

 でも――。

 なおちゃんに、自分のことを好きだと言ってくれたタツ兄とのことを前向きに検討したいって話したのは嘘じゃなかったから。

「私、緒川おがわさんとは別れる……。その後でタツ兄とちゃんと向き合うつもり。でも……私がもしタツ兄と付き合ったりしたら、お母さんは……」

 ――お母さんは頑張ろうって思える張り合いを失ったりしない?

 喉の奥まで出かかった言葉をグッと飲み込んだら、お母さんが点滴の刺さったままの手を私の方へそっと伸ばしてきた。

 私は慌ててお母さんに近付いて――。

建興たつおきくんとならなのちゃんの花嫁衣装、お母さんも見られるかなぁー。あー、でもね……お母さん、すっごく欲張りだから。それが見られたら……今度は可愛い孫の顔を見たいな?ってなると思うの」

 そこでお母さんの手が、私の手の上にそっと載せられる。

「だからお母さん、なのちゃんが建興たつおきくんと幸せになったとしても……やっぱりとうぶん死ねないな?ってなるわね」

 温かいお母さんの手――。

 私はお母さんの手を上からギュッと包み込むと、「ホント? 約束してくれる?」と問いかけた。
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