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久々のデート
着信
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「わ、私はなおちゃんと――」
別れられない?
あんなに頑張ってなおちゃんとの離別を決意したのに。
これからはタツ兄を愛すことが出来るよう、タツ兄だけを見て、彼の気持ちに応えていくんだ。
そう思ったはずなのに。
何て脆弱な覚悟なの――。
視界がゆらゆらと涙に滲んで先が言えずにいる私に、なおちゃんが追い打ちをかけてくる。
「それは今日結論を出さないといけないことなの? もっとじっくり考えてからじゃダメなのか?」
そんなことをしたら、またズルズルと同じことの繰り返しになってしまう。
そう分かっているのに。
なおちゃんからの提案はふわふわの綿菓子みたいに甘くて……私はついほだされてしまいそうになって。
まるでその揺らぎを確定させたいみたいになおちゃんの唇が近付いてきたから……私はギュッと目をつぶった。
――と。
カバンの中に入れて助手席に置いていた携帯電話がバイブレーションを伴って着信を告げてきたから。
(――お母さんに何かあった!?)
予期せぬ電話はそういう危険を多分に孕んでいる。
私はなおちゃんを押し退けるようにして立ち上がると、助手席のカバンを持ち上げた。
震える手で中から携帯を取り出して画面を見たら――。
「タツ、兄……」
それはまだ、お母さんと同じ病院の別病棟へ入院しているはずのタツ兄からの着信だった。
***
私が戸惑いに携帯の画面をじっとみつめている間にもずっと着信は続いていて。
あまりにしつこく鳴るから(やっぱりお母さんに何かあったのかも!)って不安になった。
実際に何かあれば病院から直接電話が掛かってくるはずだ。
(あ、でもお父さんがいるのにわざわざ病院からは掛かってこないか)
あるとしたら今日一日お母さんに付き添っているはずのお父さんからのはず。
だけど――。
頼みの綱のお父さんは、大好きな妻の緊急事態に滅法弱いことを私は知っていた。
もしかしたら予期せぬ事態に気が動転して、身動きが取れなくなっているのかも知れない。
たまたまその場にタツ兄が居合わせたのだとしたら――。
私はなおちゃんに「ごめん」と断りを入れると、震える指先で通話ボタンをタップした。
「――もしもし?」
『なのちゃん?』
私が応じると同時、タツ兄が被せるように私の名を呼んで。
次いで心底ホッとしたように『良かった、通じた』とつぶやくから。
「あ、あのっ」
にわかに不安になった私は、こんな時なのに横から私の腰を抱こうとしてくるなおちゃんが鬱陶しくてたまらないの……。
私はなおちゃんの手をそっと押さえると、距離をあけて座り直した。
そのままなおちゃんをじっと見つめて視線だけで〝邪魔しないで〟と訴えると、タツ兄との電話に集中する。
『僕さ、今なのちゃんのお母さんの病室に来てるんだけど……』
「えっ」
お母さんの病室に、という言葉にドキッとしたと同時、電話の向こうで話し声が聞こえて来て。
ガサガサッという音の後に、『なのちゃん、貴女、今ひとりなの?』と問い掛けられた。
私は声の主がタツ兄からお母さんに変わったことにドキッとして……。
すぐには答えることが出来なかった。
別れられない?
あんなに頑張ってなおちゃんとの離別を決意したのに。
これからはタツ兄を愛すことが出来るよう、タツ兄だけを見て、彼の気持ちに応えていくんだ。
そう思ったはずなのに。
何て脆弱な覚悟なの――。
視界がゆらゆらと涙に滲んで先が言えずにいる私に、なおちゃんが追い打ちをかけてくる。
「それは今日結論を出さないといけないことなの? もっとじっくり考えてからじゃダメなのか?」
そんなことをしたら、またズルズルと同じことの繰り返しになってしまう。
そう分かっているのに。
なおちゃんからの提案はふわふわの綿菓子みたいに甘くて……私はついほだされてしまいそうになって。
まるでその揺らぎを確定させたいみたいになおちゃんの唇が近付いてきたから……私はギュッと目をつぶった。
――と。
カバンの中に入れて助手席に置いていた携帯電話がバイブレーションを伴って着信を告げてきたから。
(――お母さんに何かあった!?)
予期せぬ電話はそういう危険を多分に孕んでいる。
私はなおちゃんを押し退けるようにして立ち上がると、助手席のカバンを持ち上げた。
震える手で中から携帯を取り出して画面を見たら――。
「タツ、兄……」
それはまだ、お母さんと同じ病院の別病棟へ入院しているはずのタツ兄からの着信だった。
***
私が戸惑いに携帯の画面をじっとみつめている間にもずっと着信は続いていて。
あまりにしつこく鳴るから(やっぱりお母さんに何かあったのかも!)って不安になった。
実際に何かあれば病院から直接電話が掛かってくるはずだ。
(あ、でもお父さんがいるのにわざわざ病院からは掛かってこないか)
あるとしたら今日一日お母さんに付き添っているはずのお父さんからのはず。
だけど――。
頼みの綱のお父さんは、大好きな妻の緊急事態に滅法弱いことを私は知っていた。
もしかしたら予期せぬ事態に気が動転して、身動きが取れなくなっているのかも知れない。
たまたまその場にタツ兄が居合わせたのだとしたら――。
私はなおちゃんに「ごめん」と断りを入れると、震える指先で通話ボタンをタップした。
「――もしもし?」
『なのちゃん?』
私が応じると同時、タツ兄が被せるように私の名を呼んで。
次いで心底ホッとしたように『良かった、通じた』とつぶやくから。
「あ、あのっ」
にわかに不安になった私は、こんな時なのに横から私の腰を抱こうとしてくるなおちゃんが鬱陶しくてたまらないの……。
私はなおちゃんの手をそっと押さえると、距離をあけて座り直した。
そのままなおちゃんをじっと見つめて視線だけで〝邪魔しないで〟と訴えると、タツ兄との電話に集中する。
『僕さ、今なのちゃんのお母さんの病室に来てるんだけど……』
「えっ」
お母さんの病室に、という言葉にドキッとしたと同時、電話の向こうで話し声が聞こえて来て。
ガサガサッという音の後に、『なのちゃん、貴女、今ひとりなの?』と問い掛けられた。
私は声の主がタツ兄からお母さんに変わったことにドキッとして……。
すぐには答えることが出来なかった。
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