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久々のデート
それを俺に話して菜乃香はどうしたいの?
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***
「つまりは……本気で菜乃香のことを愛してくれそうな男が現れた、と――。そういう話?」
タツ兄との出会い、母とタツ兄とのやり取り、タツ兄から打ち明けられた私への熱い想い。
それらを包み隠さずなおちゃんに話したら、静かな声音でなおちゃんが問うてきた。
私はコクッとうなずくと、じっとなおちゃんを見詰めて。
「で、それを俺に話して菜乃香はどうしたいの?」
ややして吐息交じり。
なおちゃんにじっと見詰められた私は、言葉に詰まった。
心の片隅。
嘘でもいいから、『そんな男はやめておけ』『俺と別れるとか言うなよ』『俺には菜乃香しかいないんだ』とか言って、なおちゃんが懸命に私を引き留める言葉を模索してくれるんじゃないかと期待していた。
なのに――。
なおちゃんはやっぱり今日もいつも通り。決めるのは菜乃香自身なのだと突き付けてくるの。
「わた、私は……」
なおちゃんの顔をまっすぐに見ていられなくて。思わずうつむいたら、触れられ慣れたなおちゃんの手が伸びてきてあごをすくい上げられる。
「なぁ菜乃香。これは二人にとって大事な話だ。目ぇそらしたりすんなよ。大体お前の決意が固いんなら俺の目を見て話せるはずだろ? 違うか?」
唇が触れそうなくらい顔を近付けられて、至近距離でそんな風に言ってくるとか……。なおちゃんはどこまでもズルイ。
彼は私と長い歳月一緒にいた中で、どうやったら効果的に私を自分の思い通りに堕とせるか、熟知していた。
「私はなおちゃんと……別――」
――なおちゃんと別れてタツ兄と新しい日々を歩んで行こうと思ってる。
なおちゃんと会う前に、何度も何度もシミュレーションしたセリフだ。
だってそうするのが、みんなが幸せになれる唯一の方法だもの。
私はなおちゃんの奥様に引け目や後ろめたさを感じなくて済むようになる。
なおちゃんは奥さんへの裏切りに終止符を打つことが出来る。
お母さんは私に彼氏がいるって知ったらきっと喜んでくれるし、ホッとしてくれるはず。
だけど――。
そうだ。
お母さん。私が結婚してしまったら心配事が消えて、ホッとして力尽きてしまうんじゃない……?
私が結婚するまでは死ねない、と淡く微笑んだお母さんの顔が脳裏にちらついて、私は言葉に詰まってしまう。
「菜乃香は俺と別れたい? お母さんを安心させてあげて……心残りを取り除いてあげたい?」
なおちゃんはきっと、私が何に迷い、先が言えずにつまずいてしまったのか、的確に理解しているの。
彼は言葉にこそしなかったけれど、『そうやって安心させてあげて、お母さんを苦しい身体から解き放ってあげたいの?』と含ませていた。
もちろん、そんなの私の本意じゃない。
それが例えお母さんを苦しめることになるのだと分かっていても……利己的でわがままで甘ちゃんな私はお母さんにこの世に対する未練を持ち続けて、少しでも長く現世に留まっていて欲しい……。
「つまりは……本気で菜乃香のことを愛してくれそうな男が現れた、と――。そういう話?」
タツ兄との出会い、母とタツ兄とのやり取り、タツ兄から打ち明けられた私への熱い想い。
それらを包み隠さずなおちゃんに話したら、静かな声音でなおちゃんが問うてきた。
私はコクッとうなずくと、じっとなおちゃんを見詰めて。
「で、それを俺に話して菜乃香はどうしたいの?」
ややして吐息交じり。
なおちゃんにじっと見詰められた私は、言葉に詰まった。
心の片隅。
嘘でもいいから、『そんな男はやめておけ』『俺と別れるとか言うなよ』『俺には菜乃香しかいないんだ』とか言って、なおちゃんが懸命に私を引き留める言葉を模索してくれるんじゃないかと期待していた。
なのに――。
なおちゃんはやっぱり今日もいつも通り。決めるのは菜乃香自身なのだと突き付けてくるの。
「わた、私は……」
なおちゃんの顔をまっすぐに見ていられなくて。思わずうつむいたら、触れられ慣れたなおちゃんの手が伸びてきてあごをすくい上げられる。
「なぁ菜乃香。これは二人にとって大事な話だ。目ぇそらしたりすんなよ。大体お前の決意が固いんなら俺の目を見て話せるはずだろ? 違うか?」
唇が触れそうなくらい顔を近付けられて、至近距離でそんな風に言ってくるとか……。なおちゃんはどこまでもズルイ。
彼は私と長い歳月一緒にいた中で、どうやったら効果的に私を自分の思い通りに堕とせるか、熟知していた。
「私はなおちゃんと……別――」
――なおちゃんと別れてタツ兄と新しい日々を歩んで行こうと思ってる。
なおちゃんと会う前に、何度も何度もシミュレーションしたセリフだ。
だってそうするのが、みんなが幸せになれる唯一の方法だもの。
私はなおちゃんの奥様に引け目や後ろめたさを感じなくて済むようになる。
なおちゃんは奥さんへの裏切りに終止符を打つことが出来る。
お母さんは私に彼氏がいるって知ったらきっと喜んでくれるし、ホッとしてくれるはず。
だけど――。
そうだ。
お母さん。私が結婚してしまったら心配事が消えて、ホッとして力尽きてしまうんじゃない……?
私が結婚するまでは死ねない、と淡く微笑んだお母さんの顔が脳裏にちらついて、私は言葉に詰まってしまう。
「菜乃香は俺と別れたい? お母さんを安心させてあげて……心残りを取り除いてあげたい?」
なおちゃんはきっと、私が何に迷い、先が言えずにつまずいてしまったのか、的確に理解しているの。
彼は言葉にこそしなかったけれど、『そうやって安心させてあげて、お母さんを苦しい身体から解き放ってあげたいの?』と含ませていた。
もちろん、そんなの私の本意じゃない。
それが例えお母さんを苦しめることになるのだと分かっていても……利己的でわがままで甘ちゃんな私はお母さんにこの世に対する未練を持ち続けて、少しでも長く現世に留まっていて欲しい……。
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