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出会い

タツ兄

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「もしかして……タツにい?」

 彼は子供の頃、同じ自治会に住んでいた、三つ年上の幼馴染み――波野なみの建興たつおきだった。

 小さい頃は地区の子供会行事が終わるたび、学年も男女も関係なくみんなでわちゃわちゃ遊んで。

 タツ兄もそんなメンバーの中の一人だったのだけれど。
 鈍くさくて要領の悪かった、泣き虫の私の面倒をよく見てくれた優しいお兄ちゃんだった。

「そうそう。久しぶりだね」

 同じ自治会のメンバーとは言え、二十軒以上間に家を挟んでいたため、タツ兄が中学に上がって、子供会から抜けたあたりから疎遠になっていた。

 幼い頃はあんなに仲が良かった同級生の女の子達とだって、中学へ入学して違った部活を選んだ途端、ほとんど接点がなくなってしまったのだから、当然と言えば当然の流れだったのだけれど。

 実家にいた間も、道端なんかでタツ兄のこと、ちっとも見かけなかったなと思って。

「タツ兄、今でも実家?」

 そんなことを思いながら何気なく聞いたら、「まさか!」と即否定された。

「親がさ、いつまでも家にいたら甘えが出るから一人暮らししろって方針でね……。就職してすぐに追い出されたんだ」

「わー、厳しいっ」

 子供の頃に戻ったみたいな気持ちでクスクス笑ったら、「だろ? 世知辛い家なんよ」と、タツ兄も一緒になって笑ってくれる。
 それは目が線になってしまうみたいな……懐かしい人懐っこい笑みで。

 変わらないその笑顔に、私は何となくホッとした。

「……おっと」

 笑い過ぎたのかな。
 タツ兄が手にしているカップがぐらりと傾いて、中身がトプンッと大きく波打ったのが見えた。

 あのカフェにはスパウトタイプのフタだってあったはずなのに。

 そう言うのをしていないからちょっと揺らしただけでカップの中で暴れたコーヒーが飛び出しそうになるんだよ。

 そう思った私が、
「もう、何でフタしてないの!」
 思わず湯気のくゆるカップをタツ兄の手から取りあげてそう言ったら、「いや……片手だったし何かフタ閉めんの、面倒めんど……む、難しかったからつい」とか。

「ねぇ、タツ兄。今、絶対面倒って言い掛けたよね?」

 すかさず突っ込んだら、そっぽを向いて誤魔化そうとするの。

 昔は私なんか足元にも及ばないほど運動神経も良くて優しくて、大人っぽく見えたタツ兄なのに。

(ヤダっ。タツ兄ってばちょっと見ない間に何だかすっごく子供っぽくなってない?)

 それがちょっぴり可愛く見えて。

 そんなことを思った自分にすぐさまハッとした。

 それは、一回り以上離れたなおちゃんとの付き合いが長くなっているからこそ感じてしまった感想なのかも知れない。

 そう思い至って、急に後ろめたくなったのだ。

 思わず黙り込んだ私に、タツ兄がバツが悪そうに「なのちゃん、ちょっと会わずにいた間にすっごく大人っぽくなったね」ってつぶやいた。

 私はその声にはじかれたみたいに意識をタツ兄の方へと取り戻す。



「――えっと……何階?」

 心の乱れを落ち着けるみたいに小さく吐息を落として問い掛けたら、「へ?」と間の抜けた声を出してタツ兄が私を見下ろしてくる。

「ごめん、唐突すぎたかな。……その、タツ兄の病室、何階?って聞きたかったの。これ、私が部屋まで運んであげるって……さっき声かけたでしょう?」

 そこまで言って、そう言えばと思って。
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