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なおちゃんの弱さ
とりあえず、中に入れてくれないか?
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何も決められないならいっそ何も決められないまま。
私、ぬるま湯に浸かり続けていたら良かったのかな。
お母さんからの諭すようなあの言葉も、投げかけられた時はあんなに胸を突き刺すみたいに心を切り裂いたはずなのに……。
私、気が付いたら利己的にもなおちゃんと〝続けていく〟ことばかり考えてしまってる。
お母さんが心底私のことを心配してくれたこと、全部全部飛んじゃってる。
周りの人間がどう思おうと、きっと私は曖昧に誤魔化しながら、なおちゃんとの関係を維持していきたいんだ。
なおちゃんが、私に問い掛けてきた「菜乃香はそれでいいのか?」と言う質問の答えが明確に出せてしまって、私は小さく吐息を落とした。
なおちゃんに乞われて付き合い始めたはずなのに、いつの間にか私がなおちゃんを彼以上に愛し、求めてしまっている。
そんな気がして仕方がない。
***
結局目元の腫れが引かなくて、化粧をしてみても誤魔化せなかったから、今日は仕事をサボってしまった。
泣きすぎたせいで枯れてしまった声のお陰。
会社にお休みしたい旨を電話したら、電話口に出た先輩――渡辺真帆さんに物凄く心配されてしまった。
(ごめんなさい。私、風邪とかではないんです)
痴情のもつれで会社をお休みするだなんて、なんて不純なんだろう。
そう思ったけれど、実際お休みすると決めて連絡を入れたら、罪悪感よりも安堵感の方が優ってしまった。
一度はしてみたメイクを落として、バタリとベッドに倒れ込む。
寝不足もあって、すぐにトロトロと睡魔が降りてくる。
でも眠りに落ちかけるたび、嫌な夢を見てビクッと身体が跳ねて目が覚めてしまうのだ。
(眠れない……)
身体は物凄く疲れているのに、心が眠ることを拒んでいるようで。
小さく吐息を落とすと、私は電源を落としたままのスマートフォンを手に取った。
――と。
ピンポーンとチャイムが鳴って、私はノロノロと重い頭を持ち上げる。
別にテレビをつけているわけでも部屋の照明を付けているわけでもない。
このまま大人しくしていたら居留守、使えちゃうかな?
そんなことを思って息を殺していたら、「菜乃香、外に車があるし、いるんだろう?」と声が掛かって。
私は条件反射のように飛び起きて、玄関に向かった。
ドアスコープを覗くまでもなく、声の主がなおちゃんなのは分かっている。
ドア越し、鍵を開けるべきか否かを迷ってドアノブを握りしめていたら、外の声が続く。
「菜乃香。とりあえず、中に入れてくれないか? お前とちゃんと話し合いたいんだ……」
――菜乃香がスマホの電源を切ってしまっているから、話したくても話せない。
そう続けられても仕方ないと思うのに、なおちゃんはそこに関しては責めてこなかった。
私は、恐る恐る鍵を開けた。
私、ぬるま湯に浸かり続けていたら良かったのかな。
お母さんからの諭すようなあの言葉も、投げかけられた時はあんなに胸を突き刺すみたいに心を切り裂いたはずなのに……。
私、気が付いたら利己的にもなおちゃんと〝続けていく〟ことばかり考えてしまってる。
お母さんが心底私のことを心配してくれたこと、全部全部飛んじゃってる。
周りの人間がどう思おうと、きっと私は曖昧に誤魔化しながら、なおちゃんとの関係を維持していきたいんだ。
なおちゃんが、私に問い掛けてきた「菜乃香はそれでいいのか?」と言う質問の答えが明確に出せてしまって、私は小さく吐息を落とした。
なおちゃんに乞われて付き合い始めたはずなのに、いつの間にか私がなおちゃんを彼以上に愛し、求めてしまっている。
そんな気がして仕方がない。
***
結局目元の腫れが引かなくて、化粧をしてみても誤魔化せなかったから、今日は仕事をサボってしまった。
泣きすぎたせいで枯れてしまった声のお陰。
会社にお休みしたい旨を電話したら、電話口に出た先輩――渡辺真帆さんに物凄く心配されてしまった。
(ごめんなさい。私、風邪とかではないんです)
痴情のもつれで会社をお休みするだなんて、なんて不純なんだろう。
そう思ったけれど、実際お休みすると決めて連絡を入れたら、罪悪感よりも安堵感の方が優ってしまった。
一度はしてみたメイクを落として、バタリとベッドに倒れ込む。
寝不足もあって、すぐにトロトロと睡魔が降りてくる。
でも眠りに落ちかけるたび、嫌な夢を見てビクッと身体が跳ねて目が覚めてしまうのだ。
(眠れない……)
身体は物凄く疲れているのに、心が眠ることを拒んでいるようで。
小さく吐息を落とすと、私は電源を落としたままのスマートフォンを手に取った。
――と。
ピンポーンとチャイムが鳴って、私はノロノロと重い頭を持ち上げる。
別にテレビをつけているわけでも部屋の照明を付けているわけでもない。
このまま大人しくしていたら居留守、使えちゃうかな?
そんなことを思って息を殺していたら、「菜乃香、外に車があるし、いるんだろう?」と声が掛かって。
私は条件反射のように飛び起きて、玄関に向かった。
ドアスコープを覗くまでもなく、声の主がなおちゃんなのは分かっている。
ドア越し、鍵を開けるべきか否かを迷ってドアノブを握りしめていたら、外の声が続く。
「菜乃香。とりあえず、中に入れてくれないか? お前とちゃんと話し合いたいんだ……」
――菜乃香がスマホの電源を切ってしまっているから、話したくても話せない。
そう続けられても仕方ないと思うのに、なおちゃんはそこに関しては責めてこなかった。
私は、恐る恐る鍵を開けた。
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