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*転職を機に

「もしかしたら」という気持ち

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 そうして何枚も何枚も図面を描くうちに、私にも渡辺さんと同じようなスキルが身に付いて。

 1日にこなせる成績表の数は平均10枚程度。

 決して多くはないけれど、毎日がとても充実していて――。


 たまに本社の女性陣みんなをお昼休みに工場に招いて、事務所外のテラスでお弁当を食べるのもすごく楽しかった。

 市役所では感じたことのない正社員としての〝一体感〟がすごく心地よくて。

 唯一不満があるとすれば、責任ある仕事をする中で、たまに発生する残業や職場の立地的な問題で、市役所で働いていた時のようになおちゃんと頻繁に会えなくなったことぐらい。


 何となくだけど、なおちゃんは会える頻度が減ってしまったら、その穴を埋めるために新たな女性を作る気がして。
 残業があるたびに、それが不安でたまらなくなった。


 そう訴えるたび、「俺はそんなに器用じゃないよ」って彼は笑うけれど、現に奥さんがいるのに私と付き合っていることに、なおちゃんはそんなに罪悪感を覚えていないように見える。

 きっと私に対しても、そういう不義理なところを遺憾なく発揮しちゃうんじゃないかな?と考えずにはいられなくて。

 自分はそんな風に自由奔放なのに、なおちゃんは私がをすることは許さないって言う。
 ならいいけどって言われても、私にはその違いがよく分からない。

 そもそもなおちゃんへのこの気持ちは浮気なの? 本気なの?

 私が結婚したいって思える相手ならば本気と見做すとなおちゃんは言ったけれど……だったら私の貴方への気持ちは本気ってことになっちゃうよ?

 貴方とは結婚なんて絶対無理だと――そんなのしてくれる気なんてさらさらない相手だと分かっているのに……。
 それでも「もしかしたら」という気持ちを捨てきれない私は大馬鹿者だ。

 なおちゃんはずるい人だと頭では分かっているのに、私は彼から離れることが出来ないの。

 きっと、彼のような浮気性の男性にはありがちなことなんだろうけれど、なおちゃんは女性の扱いがとてもうまい。
 それに、一緒にいるときは怖いぐらいに愛してくれているとくれるから。

 冷静な部分では、なおちゃんのこと、さっさと見切りをつけてしまわないと、って焦っているし、この恋に未来はないと分かっている。
 それでも尚、私はこの泥沼から抜け出すことができないのだ。

 結局のところ、私もなおちゃんと同類の最低な人間なんだと思う。

 このモヤモヤとした苦しみは、きっと奥さんを苦しめている自分へのささやかな罰。
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