上 下
12 / 120
*嫌がることはしないから

思っていた以上に綺麗だ

しおりを挟む
「ねぇ、菜乃香なのか。――さすがにそんな格好でしがみつかれたら、我慢できなくなるんだけどな……?」


 ふっ……と溜め息混じりに眉根を寄せられて、私は慌てて彼から離れる。


 けれど、それと同時にベッドへ押し倒されていた。


「お、がわ……さ……っ!?」

 横たわった拍子にブラがずり上がって、胸の膨らみがホロリとまろび出る。

 それを隠そうと咄嗟に持ち上げた手が、そっとベッドに縫いとめられて。

「隠さないで?」

 懇願するように強請ねだられた私は、どうしたらいいのか分からなくなる。


 緒川おがわさんは私の嫌がることはしない、と約束してくれた。


 だったら今の状況は……どうなの?


 緒川おがわさんはすぐに手を解いてくれたけれど、1度シーツの上に固定された手を、動かしてはいけないような気がして。
 隠そうと思えば隠せるはずなのに、それはいけないことなのだとぼんやりとした頭で思う。

 どうしてそう思ってしまうのか、分からない。
 分からないから余計に混乱して。

 そわそわと出口のない思考におちいり戸惑っているうち、いつの間にかショーツのサイドの紐が解かれていて、急に腰骨の締め付けが緩んだことに驚いた。

「あっ、やっ……!」

 肌から落ちそうになる小さな布を逃すまいと、思わず足をギュッと交差するように身をよじったら、まるでそのタイミングを見計らったように身体の下に敷いていたワンピースごとショーツを抜き取られてしまった。


「――っ!」

 声にならない悲鳴を上げた私をじっと見下ろして、

菜乃香なのか。思ってた以上に綺麗だ……」

 緒川さんにうっとりと吐息を落とされた私は、恥ずかしさに居た堪れなくなる。

 頭にぼんやりとかすみをかけたようにまとわりついていたアルコールが、全て身体を火照ほてらせる熱に変換されていくような気がして。


「恥ずか、しい……ですっ」

 それならば自由な手で隠せばいいと思うのに、私の脳内には未だ「隠さないで」と告げられた緒川おがわさんからの言葉がまるで見えないくさびのように残っていて、両手を顔横で貼り付けていた。

 それでも何とか自分を鼓舞こぶしてノロノロと腕を上げると、躊躇ためらいがちに胸のふくらみのすぐ下――鳩尾みぞおちのあたりで所在なく両手を重ねる。

 本当は隠したいのはそこじゃない。

 日頃は下着に守られている胸と下腹部。
 だけどそこを隠してしまうことはいけないことだと、緒川さんの視線が物語っているようで、どうしても隠せなくて。

 羞恥心しゅうちしんに、緒川さんをまともに見詰め返すことが出来なくて、でも動いてはいけないと何故か思っているから身体の向きを変えることもできない。

 せめてもの抵抗に、一生懸命顔を横向けて伏し目がちに視線を合わせずにつぶやいたら、ふっと柔らかく吐息を落とす気配がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!? 不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。 「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」 強引に同居が始まって甘やかされています。 人生ボロボロOL × 財閥御曹司 甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。 「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」 表紙イラスト ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

雪井しい
恋愛
事故で足を怪我した瑠璃川紗雪は担当医、蓮見啓一郎と出会う。彼は優しくスマートでいつも紗雪に温かく接してくれた。ただの患者と主治医の関係だったが、あるとき足が元通りに動かないことに自暴自棄を起こした紗雪に啓一郎は告げる。「俺と結婚してくれないか」と──。 【薄幸の元バレリーナ×スパダリエリート医者】全43話完結。 ※R18描写はやんわり気味です  ※ベリーズカフェでも公開中 ※推敲、校正前のものですのでご注意下さい

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

処理中です...