【完結】【R18】叶わぬ恋だと分かっていても

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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正直すぎる嘘つき

休むだけなら

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***


菜乃香なのか、大丈夫?」

 いつの間にかお会計を済ませたらしい緒川おがわさんに肩を抱かれてレストランを出た私は、不意に吹き付けてきた冷たい冬の風に身体をすくませた。

 そうして、この寒さにさらされてもなお、膜がかかったみたいにぼんやりした頭で思う。

 何やってんの!って。


「ちょっと酔いを覚ましたほうがいいかな。……車までは距離があるし、キミの足取りもかんばしくない。近くのホテルに入るんで、いい?」

 そこで不意に腕時計に視線を落とした緒川さんを見て、今何時だろう?と思う。

 待ち合わせてお店に入ったのは、確か19時しちじ過ぎだった。

 コース料理とは言え、そんなに長居はしていないと思うから、きっと21時くじ過ぎたくらいかな?

 私とこんな風にしているけれど、緒川さんは奥さんもお子さんもある身。

 時間が気にならないわけないよね。

 素面しらふだったなら、その仕草を見た瞬間に私、ハッとして「帰りますっ!」って言えたと思う。

 だけどお酒に判断能力を奪われた私は、そんなことさえ思いやれなくなっていて。


 今日を退けて今までで3回。
 こんな風に緒川さんとふたりきりでお出かけしたりはしたけれど、実は彼と私はキス止まり。

 肉体的な関係には至っていない。

 キスにしても告白された日にされたっきり。

 手を出されないことで、いつの間にか私、ある意味安心していたの。

 デート自体いけないことだと分かっていながら、身体そこのラインさえ越えなければセーフだと言えるんじゃないかとバカなことさえ思っていて。

 私は本当に愚か者だ。



 ぼんやりとかすみのかかったような頭で、緒川おがわさんを見上げて「ホテル……?」とつぶやく。

 自分の声が、自らが発したものじゃないみたいに遠くで聞こえて、ああ、まずいなって頭の片隅で冷静な私が警鐘を鳴らした。


 ホテルはダメ。
 そこはボーダーラインの向こう側の行為をする場所だから。

 そう思うのに、

「そう、ホテル。もちろん、菜乃香なのかが嫌がるようなことは絶対にしないって誓うよ。――ダメ、かな?」

 肩を抱いた私の耳元、甘く落ち着いた低い声音で強請ねだるようにそう問いかけてくるの、本当にズルイ。


 私はその声に流されるように
なら……」

 そう、答えてしまっていた。
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