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■だって気持ちいいんだもん!/完結祝の書き下ろし

何もかもが愛しい、と言われる幸せ

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「上がりました」

 ほかほかと湯気の立ちのぼりそうな身体に、薄桃色のマタニティパジャマを身につけてリビングへ行ったら、宗親むねちかがソファのところで春凪はなを手招きした。

「さ、ここに座って?」

 ――一緒に入れないなら、せめて風呂上がりのケアくらいは僕にさせて?

 そんなことを宗親に提案されたのは、お腹が目立ち始めた妊娠十七週頃のことだった。

 ポコンとしてきたお腹を宗親に見られたくなくて、一人でお風呂へ入りたい!と訴えたら、その打開案として提示されたのがそれだった。

 とはいえ、宗親はオリタ建設に戻ってから、帰りが遅い日が本当に多い。
 こんな風に春凪の入浴時間――大体二十一時くじ過ぎ――に帰宅できていることの方が珍しいくらいなのだけれど、それだけに早く帰れた日は絶対に世話を焼きたがるのだ。

「妊娠線のケア、ちゃんと出来てますか?」

 タオルドライしただけのしっとりと重い春凪の髪の毛をそっと持ち上げながら、宗親が春凪の耳のすぐそばで問いかけてくる。

 その声にゾクリと身体を震わせて、春凪はコクコクと懸命にうなずいた。

「もっ、もちろんですっ。はづ……お義母かあさまオススメのクリームでしっかりたっぷり念入りにっ」

 まだ葉月のことを〝お義母かあさん〟と呼び慣れていなくて、つい名前で呼びそうになって慌てて訂正しつつ、懸命に大丈夫アピールをした春凪だ。

 その辺りをよく強調しておかないと、「出来ないようなら僕が」と宗親が言いかねないから。

 それを知っている春凪は大袈裟なくらいバッチリ大丈夫だと言い張って宗親を苦笑させる。

「確認させて?って言っても、キミは嫌だって拒否るんでしょうね」

「あっ、当たり前です!」

 それを見せられるぐらいならお風呂だって一緒に入……(そこは恥ずかしくて無理かも知れないけれど)、お風呂上がりに妊娠線ケアのボディクリームを塗り塗りしてもらうぐらいは出来ているはずだ。

 正直前に大きく突き出したお腹のせいで、ここ最近は特に、下腹の辺りがちゃんとケア出来ているか不安だったりする。
 だけど恥ずかしくて誰にも見せられない以上、大丈夫だと信じるしかないではないか。


「まぁもしも跡が残ってしまったとしても、僕は気にしませんから……。それだけは覚えておいて?」

 やたら確信に満ちた宗親の表情を見ながら、春凪は思う。
(そればかりか、宗親さんっ。下手したら妊娠線の一本一本までもでかねないですよっ⁉︎)
と――。


「もうっ。怖いこと言わないでくださいよぅ。私は気にするのにぃー」

 出来れば宗親に堂々と見せられるような、つるんとした綺麗な肌のままでいたい。

 そう思って唇を尖らせたら「もしも、の話です。それに……そういうのも全部全部春凪が頑張ってくれた証でしょう? 愛しく感じないわけがないじゃないですか」とサラリと言うのとか、本当ずるい!と思って。


 今のところ自然分娩で産む予定の春凪だけれど、もしも何かトラブルがあって緊急帝王切開に切り替わったとしても――。

 宗親は下腹部に残った傷すらきっと、心の底から愛してくれるだろう。

 春凪に酷いことをして、今でも刑務所暮らしをしている康平元カレとは大違いだ。
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