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43.幸せの具現化
家族の絆
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***
「宗親さん。お腹の赤ちゃん――」
生まれたての宗親さんの写真を見た瞬間、お腹の中の子が男の子だったら柴田の呪いが解けたようで嬉しいなとぼんやり思ったことに気が付いた私は、そんなことを考えている自分が嫌になって思わず口を閉ざした。
「春凪?」
そんな私を宗親さんが壊れものを扱うみたいにそっと腕の中に抱き寄せて。
「思ってることがあるなら……一人で抱え込まずに僕に全部話して?」
じっと顔を覗き込まれた私は、しどろもどろになりながら胸の中のどす黒い気持ちを吐き出した。
男の子でも女の子でも健康ならどちらでもいい。
そう思ってあげられないことに何だか嫌気がさして。
「……ねぇ春凪。うちの母や夏凪は織田の中で窮屈そうにしているように見える?」
私の話を黙って聞いて下さった宗親さんから静かに問われた私は、フルフルと首を横に振った。
むしろお二人とも生き生きしているように見える。
「じゃあ、春凪のお母様やおばあ様は今、どうかな?」
問われて、葉月さんと話して以来、柴田の呪縛から解き放たれた二人が、凄く幸せそうにあちこち飛び回っているのを思い出した私は「凄く楽しそうにしています」と答えた。
でも、だからと言って、父や祖父が邪見にされて居るということはなくて、みんなで一緒に温泉旅行へ行ったりしているみたい。
「春凪は?」
最後にそう問いかけられた私は、すぐそばで私を優しく見つめて下さる宗親さんをじっと見上げて。「とても……とても幸せです」と答えた。
「僕もね、春凪と一緒に居られて毎日がすごく幸せなんだ。だから――」
そこで私のお腹にそっと触れた宗親さんが、「僕はこの子が男の子でも女の子でもとびっきり愛せる自信があるんだけどな?」と微笑んだ。
私は宗親さんのその笑顔を見て、漠然と抱えていた〝女の子だったら織田家に柴田の呪いを持ち込むみたいで何だか申し訳ない〟と感じていた不安がゆるゆると氷解していくのを感じて――。
男の子でも女の子でも……誰も私を責めたりしないんだ。どちらでも祝福してもらえるんだ、って……今更のようにそんな当たり前のことに気が付いた。
宗親さんが触れておられる下腹部。彼の手の上にそっと自分の手を重ねて。
――お腹の中のこの子が、どうか無事に生まれてきてくれますように。
――男の子でも女の子でもいいから。
初めて、心の底からそう願うことが出来た。
この子が無事に生まれて来てくれたならば。
葉月さんが宗親さんと夏凪さんにしたように、私もたくさんこの子の写真を残して……。
そうして家族の絆を深めていきたい。
そんな風に思った。
***
「春凪もうちの子も本当に可愛いね」
私は宗親さんに似ていると思うけれど、宗親さんは私に似ていると言う小さな小さな赤ちゃん。
私はまだ首もすわっていないその子が、懸命に私のおっぱいに吸い付いている姿を、ひどく穏やかな気持ちで見下ろしている。
あんなに悩んだ陥没乳首だったのに。
私の胸は宗親さんに沢山沢山愛されて……毎日のように赤ちゃんにおっぱいをあげていたら……いつの間にかすっかり〝普通の〟見た目になっていた。
宗親さんに「僕にだけ応えてくれる春凪の恥ずかしがり屋なおっぱいも好きだったんだけどな」って悪戯っぽく笑われながら、宗親さんと結婚してから私、あんなにコンプレックスだったはずの胸のことがちっとも気にならなくなっていたことに気が付いた。
「春凪、愛してるよ」
腕に抱いた赤ん坊ごと、宗親さんにふんわり包み込むように優しく背後から抱き締められて。
私は心の底から幸せだなって思った――。
END(2021/01/24~2022/10/09)
illustration/Yuki Ichinose
(Special thanks!)
「宗親さん。お腹の赤ちゃん――」
生まれたての宗親さんの写真を見た瞬間、お腹の中の子が男の子だったら柴田の呪いが解けたようで嬉しいなとぼんやり思ったことに気が付いた私は、そんなことを考えている自分が嫌になって思わず口を閉ざした。
「春凪?」
そんな私を宗親さんが壊れものを扱うみたいにそっと腕の中に抱き寄せて。
「思ってることがあるなら……一人で抱え込まずに僕に全部話して?」
じっと顔を覗き込まれた私は、しどろもどろになりながら胸の中のどす黒い気持ちを吐き出した。
男の子でも女の子でも健康ならどちらでもいい。
そう思ってあげられないことに何だか嫌気がさして。
「……ねぇ春凪。うちの母や夏凪は織田の中で窮屈そうにしているように見える?」
私の話を黙って聞いて下さった宗親さんから静かに問われた私は、フルフルと首を横に振った。
むしろお二人とも生き生きしているように見える。
「じゃあ、春凪のお母様やおばあ様は今、どうかな?」
問われて、葉月さんと話して以来、柴田の呪縛から解き放たれた二人が、凄く幸せそうにあちこち飛び回っているのを思い出した私は「凄く楽しそうにしています」と答えた。
でも、だからと言って、父や祖父が邪見にされて居るということはなくて、みんなで一緒に温泉旅行へ行ったりしているみたい。
「春凪は?」
最後にそう問いかけられた私は、すぐそばで私を優しく見つめて下さる宗親さんをじっと見上げて。「とても……とても幸せです」と答えた。
「僕もね、春凪と一緒に居られて毎日がすごく幸せなんだ。だから――」
そこで私のお腹にそっと触れた宗親さんが、「僕はこの子が男の子でも女の子でもとびっきり愛せる自信があるんだけどな?」と微笑んだ。
私は宗親さんのその笑顔を見て、漠然と抱えていた〝女の子だったら織田家に柴田の呪いを持ち込むみたいで何だか申し訳ない〟と感じていた不安がゆるゆると氷解していくのを感じて――。
男の子でも女の子でも……誰も私を責めたりしないんだ。どちらでも祝福してもらえるんだ、って……今更のようにそんな当たり前のことに気が付いた。
宗親さんが触れておられる下腹部。彼の手の上にそっと自分の手を重ねて。
――お腹の中のこの子が、どうか無事に生まれてきてくれますように。
――男の子でも女の子でもいいから。
初めて、心の底からそう願うことが出来た。
この子が無事に生まれて来てくれたならば。
葉月さんが宗親さんと夏凪さんにしたように、私もたくさんこの子の写真を残して……。
そうして家族の絆を深めていきたい。
そんな風に思った。
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「春凪もうちの子も本当に可愛いね」
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私はまだ首もすわっていないその子が、懸命に私のおっぱいに吸い付いている姿を、ひどく穏やかな気持ちで見下ろしている。
あんなに悩んだ陥没乳首だったのに。
私の胸は宗親さんに沢山沢山愛されて……毎日のように赤ちゃんにおっぱいをあげていたら……いつの間にかすっかり〝普通の〟見た目になっていた。
宗親さんに「僕にだけ応えてくれる春凪の恥ずかしがり屋なおっぱいも好きだったんだけどな」って悪戯っぽく笑われながら、宗親さんと結婚してから私、あんなにコンプレックスだったはずの胸のことがちっとも気にならなくなっていたことに気が付いた。
「春凪、愛してるよ」
腕に抱いた赤ん坊ごと、宗親さんにふんわり包み込むように優しく背後から抱き締められて。
私は心の底から幸せだなって思った――。
END(2021/01/24~2022/10/09)
illustration/Yuki Ichinose
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