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43.幸せの具現化

男の子がいい

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***

「きゃー。お二人ともすごくすごく可愛いですっ!」

 宗親むねちかさんは小さい頃から整った顔をしていて。だけど、写真の中の彼は全てのパーツが幼くて愛らしいから、私はたまらなくキュンとさせられた。

 ベビーベッドで眠る夏凪かなさんを見詰める小学生くらいの宗親さんの眼差しは、私によく向けられる優しいそれで。宗親さんが、心の底から夏凪さんを愛しておられるのが伝わってくる写真だった。


「とっても優しくてハンサムな、自慢のお兄様でしたの」

 お姫様みたいなフリフリのベビー服を着た夏凪かなさんを、小さな王子様が守るように慈しんでいる姿がアルバムのあちこちに散りばめられていて。

 私は頁をめくるたびに愛らしい二人の様子に感嘆の吐息を漏らした。


「こちらはアタシが生まれる前のお兄様のアルバムですの。お母様がこちらも是非春凪はなさんにって持たせてくださったんですけれど――」

 義母の葉月はづきさんが嬉しそうにアルバムを追加する姿が目に浮かぶようで、私は思わず笑ってしまう。

「最初はね、何十冊もドサッと積み上げられたんですのよ? そんなに持てるわけないでしょう?って言ったら執事を付けるからって言われて。折角の春凪はなさんとの楽しいひと時を邪魔されたくないからアタシ、丁重にお断りしましたの。それで……今回はとりあえずナンバー①って書かれた最初の一冊目だけ持って来ましたの」

 調子のよい時に実家へ顔を見せにいらしてね?と言う伝言をことづかったらしい夏凪さんに、私は葉月さんが私に宗親むねちかさんのアルバムを見せたくてうずうずしていらっしゃるんだなって思って。
 そんなことを宗親さんが知ったらきっと、当分の間織田おりたの実家には行かせてもらえなくなるだろうなって苦笑した。


***


 表紙に『Munechika①』と書かれた、少し縁取りが黄ばんで年月としつきの流れを感じさせるアルバムをめくったら、初っ端は生まれたての宗親さんあかちゃんのスナップ写真だった。

 きっと病院で撮られたものだろう。

 まだ所々に血の付いた白いタオルに包まれた宗親むねちかさんが、顔をしわくちゃにして泣いていた。

 私はその写真を見るなりぶわりと涙がこみ上げてきて。

春凪はなさん?」

 そばにいた夏凪かなさんに心配をかけてしまう。

 そういえば夏凪さんのアルバムも、一枚目の生まれたての夏凪さんを見た時、胸の奥がギュッと苦しくなったのを思い出す。

 その理由に気が付いた私は、それを誤魔化すみたいに当たり障りのない言葉を紡いだ。

「ご、めんなさ、……。私、妊娠してから……何、だか少し、情緒不安、定で……」

 ポロポロとこぼれ落ちる涙を抑えられずに途切れ途切れに言ったら、夏凪さんがそっと背中をさすって下さった。

 何も言わずに背中を撫でてくれる夏凪さんが、何となく宗親さんと重なって。

 頭の中で、夏凪さんと宗親さんの生まれたての写真が交互にぐるぐるとめぐり始めてしまう。

 そうして思った。

 お腹の中の赤ちゃんはまだ男の子か女の子か分からないけれど――。

 出来る事ならな、って。
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