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43.幸せの具現化
いてくれるといいな
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(言われてみたら今月の予定日っていつだった……?)
仕事を辞めてからあまり手に取らなくなってしまっていた手帳をいそいそと開いてみたら、予定日を二週間以上も過ぎてしまっていることに今更のように気が付いて。
「あ、あの……宗親さん……私……」
私の表情ですべてを悟ったらしい宗親さんが、
「検査薬買ってきます」
腕時計にちらりと視線を落としてから、そうおっしゃって玄関に踵を返した。
近所のドラッグストアは十九時閉店。今はまだ十八時半過ぎだから、急げばきっと間に合うはず。
*
クリスマスイヴ。
プレゼントに香水をお渡しした私をお風呂場で愛してくださった宗親さんは、超高級ホテルのスイートルームでも、まるでその延長みたいに明け方まで何度も何度も求めてくださって。
気が付けば私、足腰が立たなくなるほどになってしまったのだけれど。
考えてみたらあの日以来、宗親さんは私との行為に避妊なんてしていなかったのだ。
情交の後、膣内からトロリと溢れ出てくる温かな感触にも、今やすっかり慣れっこになってしまっていた。
そんなだったのに。
自分自身妊娠の可能性にもっと早く気付くべきだったと、己の不甲斐なさに呆れながらそっと下腹部を撫でる。
(赤ちゃん。いてくれるといいな)
触れる手のひらに、ありったけの願いを込めた。
***
「春凪さん、いらっしゃるー?」
宗親さんが検査薬を買ってきてくださって、夫婦二人して検査結果に固唾を呑んだあの日からずっと。
『オリタ』で秘書をやっている宗親さんの妹・夏凪さんが、夕方にちょいちょいマンションに遊びに来てくださるようになった。
きっと帰りが遅くなりがちな宗親さんが、私を気遣って夏凪さんに訪問をお願いしているんだろう。
イマイチ体調が芳しくなくて、外出できずに家に一人でいることが多かった私は、それでも気晴らしに誰かと話せるのは嬉しくて。
夏凪さんの訪問に、実はすごく助けられている。
「飴なんかは平気でしたわよね?」
「そんなに数は食べられないですけど……ちょっと口に含むぐらいなら」
夏凪さんが渡して下さったのは、飴ではなくて京都の方の有名な老舗のカラフルな金平糖だった。
「本当にしんどそうですけれど……ちゃんと食べるもの、口に出来てますの?」
差し出された高級そうなふた付き陶器に入った金平糖をひとつつまんで口に入れたところで夏凪さんから心配そうに眉根を寄せられて、私は咄嗟にうまく返せなくて淡い笑みを返した。
夏凪さんに心配されるのも無理はない。
このところまともに固形物を口に出来ていないからか、私は自分でも分かるぐらいやつれてしまっている。
優しく解ける甘さを舌の上で転がしながら、これなら調子がいい時に口に入れられそうだなとぼんやり思って。
「大丈夫です。宗親さんが食べられそうなものを色々試行錯誤してくださるので」
言ったら、夏凪さんが一瞬だけ瞳を見開いてから、「春凪さんをオロオロしながら甘やかすお兄様の姿が目に浮かぶようですわ」と、クスクス笑った。
そう言えば幼い頃、夏凪さんも宗親さんにかなり甘やかされたと聞いたことがある。
宗親さんの口振りからもそれは時折垣間見えて。
仕事を辞めてからあまり手に取らなくなってしまっていた手帳をいそいそと開いてみたら、予定日を二週間以上も過ぎてしまっていることに今更のように気が付いて。
「あ、あの……宗親さん……私……」
私の表情ですべてを悟ったらしい宗親さんが、
「検査薬買ってきます」
腕時計にちらりと視線を落としてから、そうおっしゃって玄関に踵を返した。
近所のドラッグストアは十九時閉店。今はまだ十八時半過ぎだから、急げばきっと間に合うはず。
*
クリスマスイヴ。
プレゼントに香水をお渡しした私をお風呂場で愛してくださった宗親さんは、超高級ホテルのスイートルームでも、まるでその延長みたいに明け方まで何度も何度も求めてくださって。
気が付けば私、足腰が立たなくなるほどになってしまったのだけれど。
考えてみたらあの日以来、宗親さんは私との行為に避妊なんてしていなかったのだ。
情交の後、膣内からトロリと溢れ出てくる温かな感触にも、今やすっかり慣れっこになってしまっていた。
そんなだったのに。
自分自身妊娠の可能性にもっと早く気付くべきだったと、己の不甲斐なさに呆れながらそっと下腹部を撫でる。
(赤ちゃん。いてくれるといいな)
触れる手のひらに、ありったけの願いを込めた。
***
「春凪さん、いらっしゃるー?」
宗親さんが検査薬を買ってきてくださって、夫婦二人して検査結果に固唾を呑んだあの日からずっと。
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きっと帰りが遅くなりがちな宗親さんが、私を気遣って夏凪さんに訪問をお願いしているんだろう。
イマイチ体調が芳しくなくて、外出できずに家に一人でいることが多かった私は、それでも気晴らしに誰かと話せるのは嬉しくて。
夏凪さんの訪問に、実はすごく助けられている。
「飴なんかは平気でしたわよね?」
「そんなに数は食べられないですけど……ちょっと口に含むぐらいなら」
夏凪さんが渡して下さったのは、飴ではなくて京都の方の有名な老舗のカラフルな金平糖だった。
「本当にしんどそうですけれど……ちゃんと食べるもの、口に出来てますの?」
差し出された高級そうなふた付き陶器に入った金平糖をひとつつまんで口に入れたところで夏凪さんから心配そうに眉根を寄せられて、私は咄嗟にうまく返せなくて淡い笑みを返した。
夏凪さんに心配されるのも無理はない。
このところまともに固形物を口に出来ていないからか、私は自分でも分かるぐらいやつれてしまっている。
優しく解ける甘さを舌の上で転がしながら、これなら調子がいい時に口に入れられそうだなとぼんやり思って。
「大丈夫です。宗親さんが食べられそうなものを色々試行錯誤してくださるので」
言ったら、夏凪さんが一瞬だけ瞳を見開いてから、「春凪さんをオロオロしながら甘やかすお兄様の姿が目に浮かぶようですわ」と、クスクス笑った。
そう言えば幼い頃、夏凪さんも宗親さんにかなり甘やかされたと聞いたことがある。
宗親さんの口振りからもそれは時折垣間見えて。
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