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43.幸せの具現化
新生活
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二月の半ば。
当初は年明け早々と思われていた宗親さんの神代組退職だけれど、思いのほか引き継ぎに時間を要して。
梅の花が満開を迎えるころになってやっと。宗親さんはオリタ建設の副社長に戻られた。
私も宗親さんの後を追うように、入社して一年も経っていなかった神代組を後ろ髪を引かれながら辞めたのだけれど。
結果的にはそれで良かったのかもって思っています。
***
「春凪、ただいま」
帰宅するなり玄関先で私をギューッと抱きしめて。
宗親さんがまるで丸一日離れていたすき間を埋めるみたいに私の髪の毛に鼻を押し当てて大きく息を吸い込んだ。
「ああ、春凪の匂い、やっぱりいいなぁ。――すっごく落ち着きます」
これは一緒に働くことが出来なくなってから、毎日のように繰り返される帰宅後の儀式。なのに私は全然慣れることが出来なくて、未だにやたらと照れてしまうの。
「あ、そうだ。これ」
宗親さんは手にしていた小さな紙袋を私に差し出すと、
「今日は明智からプロセスチーズの味噌漬けと、酒粕漬けを勧められたんだ」
それを受け取った私ごと、再度ギュッと抱き締めていらした。
転職なさってからずっと帰りが遅かった宗親さんが、今日は珍しく早くに戻っていらしたのは明智さんに呼ばれたからかな?
そんなことを思うと同時、何だか凄く愛されているのを実感して慣れない感覚にむず痒くなってしまう。
宗親さんは、クリスマスの夜にハイランドホテルの一室で、お取り寄せの高級チーズ
・二十二か月熟成したオレンジ色のフランスチーズ『ミモレット』
・夏に搾った牛乳だけで作ったチーズ『コンテ・エスティーブ』
・フレッシュチーズのひとつであるブリア・サヴァランにレーズンをたっぷりとまぶした『プチ・テオドール』
・トリュフ入りのゴーダチーズ『ゴーダ・トリュフ』
・山育ちの羊乳チーズ『オッソー・イラティ』
で私を思いっきり喜ばせて下さったのに、今みたいに何でもない日にも当然のように私に珍しいチーズを買って来て下さるから。
「あ、甘やかしすぎですっ」
思わず照れるあまりそんな憎まれ口をたたいてしまった。
「春凪、素直じゃないですね。そこは一言、『有難う』でしょう?」
抱き締められたままクスクス笑われた私は、消え入りそうな声で「有難うございます」ってつぶやいた。
「よろしい。――じゃあこれは夕飯後に食べようね」
まるで神代組で管工事課長をなさっていた時みたいに私の頭をポンポンと撫でると、「先に風呂へ入って来ますね」とおっしゃってから、ふと不安そうに私の顔を覗き込んできた。
当初は年明け早々と思われていた宗親さんの神代組退職だけれど、思いのほか引き継ぎに時間を要して。
梅の花が満開を迎えるころになってやっと。宗親さんはオリタ建設の副社長に戻られた。
私も宗親さんの後を追うように、入社して一年も経っていなかった神代組を後ろ髪を引かれながら辞めたのだけれど。
結果的にはそれで良かったのかもって思っています。
***
「春凪、ただいま」
帰宅するなり玄関先で私をギューッと抱きしめて。
宗親さんがまるで丸一日離れていたすき間を埋めるみたいに私の髪の毛に鼻を押し当てて大きく息を吸い込んだ。
「ああ、春凪の匂い、やっぱりいいなぁ。――すっごく落ち着きます」
これは一緒に働くことが出来なくなってから、毎日のように繰り返される帰宅後の儀式。なのに私は全然慣れることが出来なくて、未だにやたらと照れてしまうの。
「あ、そうだ。これ」
宗親さんは手にしていた小さな紙袋を私に差し出すと、
「今日は明智からプロセスチーズの味噌漬けと、酒粕漬けを勧められたんだ」
それを受け取った私ごと、再度ギュッと抱き締めていらした。
転職なさってからずっと帰りが遅かった宗親さんが、今日は珍しく早くに戻っていらしたのは明智さんに呼ばれたからかな?
そんなことを思うと同時、何だか凄く愛されているのを実感して慣れない感覚にむず痒くなってしまう。
宗親さんは、クリスマスの夜にハイランドホテルの一室で、お取り寄せの高級チーズ
・二十二か月熟成したオレンジ色のフランスチーズ『ミモレット』
・夏に搾った牛乳だけで作ったチーズ『コンテ・エスティーブ』
・フレッシュチーズのひとつであるブリア・サヴァランにレーズンをたっぷりとまぶした『プチ・テオドール』
・トリュフ入りのゴーダチーズ『ゴーダ・トリュフ』
・山育ちの羊乳チーズ『オッソー・イラティ』
で私を思いっきり喜ばせて下さったのに、今みたいに何でもない日にも当然のように私に珍しいチーズを買って来て下さるから。
「あ、甘やかしすぎですっ」
思わず照れるあまりそんな憎まれ口をたたいてしまった。
「春凪、素直じゃないですね。そこは一言、『有難う』でしょう?」
抱き締められたままクスクス笑われた私は、消え入りそうな声で「有難うございます」ってつぶやいた。
「よろしい。――じゃあこれは夕飯後に食べようね」
まるで神代組で管工事課長をなさっていた時みたいに私の頭をポンポンと撫でると、「先に風呂へ入って来ますね」とおっしゃってから、ふと不安そうに私の顔を覗き込んできた。
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