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40.記憶と結びつくもの

これって最悪じゃない?

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「あ、あの……いいんですか?」

 驚きの余り思わず間の抜けた声を出してしまった私を宗親さんがギュッと抱きしめていらして、彼が身にまとうマリン系のコロンがふわりと鼻腔をくすぐった。
 その香りに包まれた瞬間、自分はいま宗親さんの腕の中にいるんだと実感させられて、凄く幸せな気持ちになった。

 いつだって宗親さんはこの上品なマリン系の香りとともに、私のそばにいて下さるから。

 彼とは切っても切り離せないその香りに、私はうっとりと身をゆだねて、いつだって宗親さんに守られているんだと痛感させられる。


***


宗親むねちかさん、そ、その……お誕生日には何もお祝い出来てなくて本当にすみませんっ! それで、これ!」

「……え?」

 宗親さんが帰宅なさるなり、ガバッと頭を下げながら小さな包みを両手で差し出したら、驚いたみたいにキョトンとされて。
 私は恥ずかしさに思わず縮こまってしまう。

「この前Misokaミソカで集まった時、ほたると話していて気付いたんです。私、ずっと宗親さんにしていただくばっかりで何もお返し出来てないって」

 考えてみれば、宗親さんは私の誕生日なんて関係なしに、あれこれと沢山のプレゼントを下さったのだ。


 一緒に暮らし始めて程なくして、実家にわざわざ出向いて下さった宗親さんは、私が囚われていた〝柴田の跡取り〟という鎖を断ち切って下さった。
 あれはきっと、宗親さん以外の男性には出来ない、最大のプレゼントだった気がする。

 それに――。

 そもそも家なき子になってしまった私に、高級マンションへ住まう権利まで与えて下さって……使っていなかった部屋にエアコンを新調して下さった上、わざわざ私好みの扇風機まで付けて快適に過ごせるよう配慮して下さった。

 定期的。餌付けみたいに大好きなチーズとそれに合うお酒を振舞って頂けるのも、私にたかるばかりだった元カレから比べると信じられないほどの好待遇と甘やかしだ。

 婚約指輪の件にしたってそう。
 私の傷口に塩を塗らないよう、わざわざ形を変えて下さって。

 胸元と耳元を飾る、婚約指輪に使われていたダイヤがあしらわれたアクセサリーに触れて、私は彼の愛情の深さを実感する。

 ふと左手薬指に視線を落とせば、家事の妨げにならないようにという配慮で滅茶苦茶シンプルなデザインにして下さった宗親むねちかさんとお揃いの結婚指輪がキラリと光る。

 いつも宗親さんに頂いたものを身に着けていられるのって、何て幸せなんだろう。
 
 離れていても一緒だと思わせてくれるグッズって本当にいい!


 宗親さんはこんな普通の女の子でしかない、取り立てて取り柄のない私を妻にまでして下さった。その上でこれでもか!と言うぐらいの深い愛情で毎日私を包んで下さっている。

 なのに――。 
 考えてみたら私、宗親さんに頂くばかりで何一つお返し出来ていなかった。

 これって最悪じゃない?
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