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38.心を鬼にして
元カレにとことん甘い私
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「春凪。長いことお待たせしましたね」
そう言って宗親さんが、こうちゃんに奪われたはずの婚約指輪を私の前に差し出してくれたのは、入籍から一ヶ月半後のことだった。
「あの……こう……あの人は」
こうちゃん、と言いそうになって何となくそんな愛称でいつまでもあんな酷い元カレのことを呼ぶのが憚られた私は、敢えて〝あの人〟と言い直して。
「警察に捕まりました。キミに怪我をさせていますし、指輪も奪っている。転売目的で質屋に来た所を捕まりましたので、情状酌量の余地はありません。強盗致傷罪で実刑は免れないと思います」
底冷えするほど冷徹な声音で淡々と告げられた宗親さんの声音に、私はゾクリと肩を震わせる。
*
宗親さんに付き添われて、警察へ被害届を出しに行ったのは、康平に酷いことをされた二日後――入籍日の翌日のことだった。
法律上でも私の夫となったことで、宗親さんは動きやすくなったのかな。
元カレにされたことを思い出すだけで身体が震えて言葉に詰まってしまう私を、宗親さんはずっとそばで支えていて下さった。
宗親さんがいなかったらきっと、私は何も出来ずに泣き寝入りをしていたと思う。
それでも日が経つにつれて、私が被害届を出したことで自分に縁のあった相手が犯罪者になってしまうかも知れないと思うと何だか落ち着かなくて。
あちら側の弁護士を通じて、宗親さんが手配して下さったこちら側の弁護士に被害弁償や示談交渉の申し出があったとき、私は少なからず心が動いてしまったのだけど。
宗親さんはほたるから、康平が長いこと私を付け狙っていたことを聞かれたみたいで、しっかりと罪を償わせた方が彼のためだと仰った。
康平と付き合っていたころ、私は彼にとことん甘かったと思う。
私をふったのは彼のはずなのに、Misoka付近で襲われたあの日、全部私が悪かったみたいな口振りで話してきた康平の言動を思い出した私は、宗親さんやほたるの言葉に、甘い気持ちを懸命に心から追い出した。
きっと康平は、私が彼のことを気にかけても、ちっとも意に介さない。
そう言うところのある人だから、もし今回私が訴えを取り下げたりしたら、逆に「春凪が虚偽の申し立てをして自分をハメた、と逆恨みし兼ねない」とも宗親さんに言われて。
途端、それが容易に想像出来てしまった私は、宗親さんの言に納得するとともに、この件に関する外部からの連絡事項の一切合切を宗親さんに一任することにしたのだ。
彼と付き合いのあった私よりも、宗親さんの方が前田康平という人間をよく掴めている気がして、私の好きな人――まだ夫というのには多大なる照れがっ!――は本当にすごいなと思ってしまった。
そう言って宗親さんが、こうちゃんに奪われたはずの婚約指輪を私の前に差し出してくれたのは、入籍から一ヶ月半後のことだった。
「あの……こう……あの人は」
こうちゃん、と言いそうになって何となくそんな愛称でいつまでもあんな酷い元カレのことを呼ぶのが憚られた私は、敢えて〝あの人〟と言い直して。
「警察に捕まりました。キミに怪我をさせていますし、指輪も奪っている。転売目的で質屋に来た所を捕まりましたので、情状酌量の余地はありません。強盗致傷罪で実刑は免れないと思います」
底冷えするほど冷徹な声音で淡々と告げられた宗親さんの声音に、私はゾクリと肩を震わせる。
*
宗親さんに付き添われて、警察へ被害届を出しに行ったのは、康平に酷いことをされた二日後――入籍日の翌日のことだった。
法律上でも私の夫となったことで、宗親さんは動きやすくなったのかな。
元カレにされたことを思い出すだけで身体が震えて言葉に詰まってしまう私を、宗親さんはずっとそばで支えていて下さった。
宗親さんがいなかったらきっと、私は何も出来ずに泣き寝入りをしていたと思う。
それでも日が経つにつれて、私が被害届を出したことで自分に縁のあった相手が犯罪者になってしまうかも知れないと思うと何だか落ち着かなくて。
あちら側の弁護士を通じて、宗親さんが手配して下さったこちら側の弁護士に被害弁償や示談交渉の申し出があったとき、私は少なからず心が動いてしまったのだけど。
宗親さんはほたるから、康平が長いこと私を付け狙っていたことを聞かれたみたいで、しっかりと罪を償わせた方が彼のためだと仰った。
康平と付き合っていたころ、私は彼にとことん甘かったと思う。
私をふったのは彼のはずなのに、Misoka付近で襲われたあの日、全部私が悪かったみたいな口振りで話してきた康平の言動を思い出した私は、宗親さんやほたるの言葉に、甘い気持ちを懸命に心から追い出した。
きっと康平は、私が彼のことを気にかけても、ちっとも意に介さない。
そう言うところのある人だから、もし今回私が訴えを取り下げたりしたら、逆に「春凪が虚偽の申し立てをして自分をハメた、と逆恨みし兼ねない」とも宗親さんに言われて。
途端、それが容易に想像出来てしまった私は、宗親さんの言に納得するとともに、この件に関する外部からの連絡事項の一切合切を宗親さんに一任することにしたのだ。
彼と付き合いのあった私よりも、宗親さんの方が前田康平という人間をよく掴めている気がして、私の好きな人――まだ夫というのには多大なる照れがっ!――は本当にすごいなと思ってしまった。
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