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37.落とし前をつけてもらいましょう

あれはオーダーメイドの一点物で間違いなかったですよね?

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 泣きながら男にされた所業を隠そうとする春凪はなから、どうやったら彼女が抱えた気持ち悪さを消してあげられるだろう。

 僕は、気が付いたらあの男が付けたあざへ、上書きするみたいに唇を寄せていた。

 きっと洗うよりこうした方がいい――。


宗親むねちかさ……」

 春凪が僕の名前を呼びながらすがりついてくるのを感じながら、僕はそう確信した。


***


『はい、珠洲谷すずやでございます』

 コール数回。
 午前八時を過ぎたばかりという、小売業者にとってはいささか早すぎる時間帯にも関わらず、通話口からまるで営業時間内ででもあるかのようなきっちりとした声音が響く。





 泣き疲れたのだろうか。
 昨晩、風呂で春凪に求められるままに彼女を抱いた後、パジャマに着替えさせてベッドまで連れて行ったら、春凪はまるで安心しきった子供みたいに僕の腕の中でストンと眠りに落ちてしまった。

 僕は一晩中そんな春凪を抱きしめたまま眠って。
 春凪の身体を支えていた腕が、甘やかな痺れを訴えてくるのが、春凪の存在を感じられて心地よい。

 僕はぐっすり眠る春凪はなの愛らしい唇に軽くキスを落とすと、彼女を起こさないよう細心の注意を払ってベッドから抜け出した。

 そうして〝珠洲谷すずや〟と名乗った、母と同年代ぐらいの実年女性に電話をかけたのだけれど――。





織田おりたです。朝早くから申し訳ない」

『いえ、問題ございません』

 名乗らなくてもきっと、僕からの着信だというのは相手にも分かっているだろう。
 だからこそ、こんな開店前のはやい時間にも関わらず、にこやかに応答してくれたんだろうし。

 そう思いながらも、僕は〝織田〟の一族であることを誇示するように、敢えて名乗りを上げると、早々に要件を切り出した。


「過日僕がフィアンセに送った婚約指輪なんですけど。あれはオーダーメイドの一点物で間違いなかったですよね?」

『もちろんでございます。――もしや商品に何か問題がございましたでしょうか?』

「まさか。指輪自体はとても良い品で気に入っています。ただ、少し問題が起きてしまいましてね――」

 僕の言葉に電話口。
 珠洲谷すずやさんが構えるように小さく息を呑んだのが分かった。

 僕は彼女に二言三言頼み事をすると、「もちろん謝礼はさせて頂きますので、出来るだけ急いで下さい。の方は夕方取りにうかがいますのでそのつもりでご準備の方、よろしくお願いします」と念押しして電話を切った。


***


 耐熱用の小さなグラタン皿に、ふんわりご飯を敷き詰めて、麺つゆを回し掛けてから軽く混ぜ合わせて味を見る。

(こんなもんかな)

 あまり濃い味にしたら、弱った春凪はなの身体に差し障りが出るかもしれない。
 かといって味気ないのも美味うまくないし。

 後でチーズを載せることも考えて、気持ち薄めかな?という塩梅あんばいに調整すると、ご飯の真ん中を窪ませてそこに生卵をひとつ落とした。

 その上にプロセスチーズで出来た「濃厚」「クリーミー」が売りの、とろけるスライスチーズをのせて炒りごまを散らしてからオーブンへ。

 チーズの焼かれる香りがキッチンに充満し始めたころ、春凪がまだ寝ぼけているのかな。
 少しトロンとした表情で、寝室から出てきた。
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