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35.やり直そう
コレは俺たちの門出の資金にしてやるよ
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「俺、お前を信じてたのに最低だな」
(最低なのはどっち?)
思ったけれど、それを言うのも億劫なくらい、康平とは話す価値もないと思ってしまった。
そんな私を置き去りに、康平が
「けど、まぁいいや。これで全部チャラにしてやるよ」
言って、左手薬指から指輪を抜き取られた私は、一気に血の気が引くのを感じた。
「返して!」
それは宗親さんが私にくれた大切なものなの!
そう思うのに、康平は私の指輪を高く掲げて意地悪くニヤリと笑って。
「こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?」
宗親さんはきっと、そうなったとしても私を見限ったりはなさらない。
そう思うのに、心のどこかで「でも」と思う自分もいて怖くなる。
何より、宗親さんから頂いた大切なリングを奪われるなんて我慢できなかった。
「まあ、さ。婚約解消されたら俺が結婚してやるから。行き遅れる心配だけはしなくていいぞ?」
必死に指輪を取り返そうと飛び跳ねる私を突き飛ばして、康平がとんでもないことを言う。
「何で今更そんなこと……」
怒りに震える声でそう言ったら、「お前の実家、男が権力持てるんだろ? 最高じゃん!」って……この人は一体何を言っているの?
そもそもそれは宗親さんと出会う前の柴田家の話。
今の柴田はそんなじゃないのに。
「康平、色々思い違いしてる」
キッと彼を睨み付けながら、怒りに任せて康平を壁にギュッと押し付けたら、「春凪、ちょっと会わないうちに大胆になったな」ってクスクスと笑われて、そのまま康平に抱きすくめられてしまう。
「イヤッ! 離して!」
「俺に先に密着してきたの、春凪の方だろ? ――それにしてもお前、いい匂いだな」
言葉と同時、頭に鼻先を押し当てられて、髪の毛の匂いを嗅がれる気配がして、全身が怖気立った。
「この指輪はさ、俺が売って俺たちの門出の資金にしてやるから……年の離れたオッサンなんかとはさっさと別れて俺と結婚しようぜ? な?」
康平は完全におかしくなっている。
そう思うのに、私を捕まえる彼の腕から逃れる術が見つけられなくて。
それでも私は必死に身体をよじって康平の拘束から逃れようと抗った。
(最低なのはどっち?)
思ったけれど、それを言うのも億劫なくらい、康平とは話す価値もないと思ってしまった。
そんな私を置き去りに、康平が
「けど、まぁいいや。これで全部チャラにしてやるよ」
言って、左手薬指から指輪を抜き取られた私は、一気に血の気が引くのを感じた。
「返して!」
それは宗親さんが私にくれた大切なものなの!
そう思うのに、康平は私の指輪を高く掲げて意地悪くニヤリと笑って。
「こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?」
宗親さんはきっと、そうなったとしても私を見限ったりはなさらない。
そう思うのに、心のどこかで「でも」と思う自分もいて怖くなる。
何より、宗親さんから頂いた大切なリングを奪われるなんて我慢できなかった。
「まあ、さ。婚約解消されたら俺が結婚してやるから。行き遅れる心配だけはしなくていいぞ?」
必死に指輪を取り返そうと飛び跳ねる私を突き飛ばして、康平がとんでもないことを言う。
「何で今更そんなこと……」
怒りに震える声でそう言ったら、「お前の実家、男が権力持てるんだろ? 最高じゃん!」って……この人は一体何を言っているの?
そもそもそれは宗親さんと出会う前の柴田家の話。
今の柴田はそんなじゃないのに。
「康平、色々思い違いしてる」
キッと彼を睨み付けながら、怒りに任せて康平を壁にギュッと押し付けたら、「春凪、ちょっと会わないうちに大胆になったな」ってクスクスと笑われて、そのまま康平に抱きすくめられてしまう。
「イヤッ! 離して!」
「俺に先に密着してきたの、春凪の方だろ? ――それにしてもお前、いい匂いだな」
言葉と同時、頭に鼻先を押し当てられて、髪の毛の匂いを嗅がれる気配がして、全身が怖気立った。
「この指輪はさ、俺が売って俺たちの門出の資金にしてやるから……年の離れたオッサンなんかとはさっさと別れて俺と結婚しようぜ? な?」
康平は完全におかしくなっている。
そう思うのに、私を捕まえる彼の腕から逃れる術が見つけられなくて。
それでも私は必死に身体をよじって康平の拘束から逃れようと抗った。
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