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35.やり直そう

僕もなるべく早く切り上げますので、春凪は出来るだけのんびり支度して?

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***

「私、先にMisokaミソカに行ってますね?」

 週末。

 宗親むねちかさんが「ほたるさんも交えてMisokaミソカに飲みに行きましょう」と提案して下さって。

 私は二つ返事でオーケーをして、ほたるに打診した。

 当初の予定では宗親さんとふたりで先にMisokaミソカに行って、お店でほたると合流!のはずだったのだけれど。

 さあそろそろ退社という頃になって、宗親さんが社長室に呼ばれてしまった。

 Misokaミソカ十八時ゆうがたから営業していて、お酒やおつまみの他に明智あけちさん手作りの軽食が食べられたりする。

 特にパスタが絶品なのだと宗親さんに教えて頂いた私は、朝からすっかりパスタのお口。

 ほたると合流する前に、軽くお腹に何かを入れながら明智さんを焚き付ける計画だったので、ほたるとの待ち合わせより一時間早く行く予定にしていて。

 明智さんには「開店直後に伺います」とカウンター席を三つ確保して頂いていた。



「明智なら少々待たせても構わないと思うんですがね」

 私が一人でMisokaミソカに行くことになるのが気に入らないらしく、宗親さんがとんでもない事をおっしゃる。

「お友達だからって邪険に扱っちゃダメです!」

 社長室に向かう宗親さんと並んで歩きながら。
 退社準備をすっかり整えた私はそのまま一旦帰宅予定。

 廊下に自分達以外に人影がないのを良い事に、エレベーター待ちをする宗親さんに向けて、私はぷぅっと頬を膨らませて見せた。


春凪はな、その可愛い顔は反則です」

 途端宗親むねちかさんがはぁ~っと大きく溜め息をついて、私から視線を逸らす。

「僕もなるべく早く切り上げますので、春凪は出来るだけのんびり支度してMisokaミソカへ向かって下さい」

 サラリと「こら!」と叱りたくなるような言葉を私に投げて、宗親さんがエレベーターの中に吸い込まれていく。

 私は一人その場に取り残されて……。

「階段で降りよ……」

 何だか会社では基本鬼上司の宗親さんが、垣間見せた甘えん坊な所がツボに入って、じわじわと顔がにやけてくるのを止められなくて困ってしまった。

(宗親さん、可愛いのはそっちですよぅ)

 そんなことを面と向かって言ったら、どんな仕返しが待っているか分からないから、絶対に本人には内緒。



***



 宗親むねちかさんにはゆっくり準備するように言われたけれど、やっぱり約束しておいて連絡もなしに人を待たせるのは良くない。

 Misokaミソカの店の電話番号を知らないわけじゃなかったけれど、間に合いそうなら掛ける必要もないよね、と思っていそいそと家を出る。
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